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22 驚く贈り物
話が決まってからも五分ほど、エイプリルとマージはぐずぐずしていた。 なんとなく別れるのが惜しい──そんな雰囲気だった。
近くにあるミッチの牛舎から、のどかな牛の鳴き声が大きく響いて、二人はようやく気持ちを切り替えた。
「じゃ、明日ね。 二時よ、忘れないで」
「覚えてるわ。 ここで、二時ね」
「タオル持ってきてね。 それじゃ」
「バイバイ」
二人は角に行き着くまでに三度振り返り、そのたびにジェンは大きく手を振った。 二人も笑顔で振り返してきた。 特にマージは、いよいよ角を曲がるというとき、両手を大きく上げて丸を作り、口を大きく開けて、明日ね! と叫んできた。
しっかり見送った後、ジェンは小さく歌を口ずさみながら玄関に向かった。 そして、扉を開けるとき大きく声を出した。
「ただいま」
すると、横の部屋からミッチが顔を出し、渋い声で尋ねた。
「もう友達ができたようだな。 あれはウィンターズのところの娘だろう?」
新しい友達の苗字はまだ聞いていなかった。 だからジェンは何気なく訊き返した。
「どっちの子? エイプリル? それとも……」
「そのエイプリルだ」
答えて、珍しくミッチがにやっとした。
「一度聞いたら忘れん名前だよな。 エイプリル・ウィンターズ(冬の四月)なんてな」
「ほんとに冬の中の春みたいね、あの人。 お日様みたいにきれい」
ミッチは眉を上げて呟いた。
「弱虫だぜ。 俺を見るといつも、雪だるまのように固まっちまうんだ」
それでジェンは、二人がなぜかミッチを怖がっていたのを思い出した。 エイプリルだけならまだわかるが、度胸のよさそうなマージまで敬遠している。 人をあまり見かけで判断しないジェンには、二人の反応がふしぎだった。
「バア〜〜とか言って、おどした?」
ミッチは苦笑した。
「そんなまね、するわけないだろう」
ジェンもつられて笑いながら、心をこめて言った。
「もうそんな態度取らないと思うわ。 いい人だって話したから。 明日の午後、一緒に湖へ行く約束したんだけど、いい?」
「湖か。 いいだろう。 ただし、水に入ったらあまり岸を離れるんじゃないぞ。 急に深くなってるところがあるから」」
「よく気をつけるわ。 ありがとう!」
爽やかに言い残して、ジェンは雲に乗ったような足取りで階段を上がっていった。
部屋に入ったところで、ジェンの足が止まった。 ベッドの上にワンピースが二枚広げてある。 一枚は緑と白の細い縞模様で、もう一枚は淡いピンクだった。 ジェンはわくわくしながらベッドに近づき、まず緑のギンガムの服を持ち上げて、体に当ててみた。 大きさはぴったりのようだった。
「これは普段着ね。 そしてこちらは……」
思わず顔がほころんだ。 なんて美しい服だろう。 胸に細かくひだを取って、一面にスモックと小花の刺繍がほどこしてあり、かわいらしいちょうちん袖にはレースがついていた。
着るのがもったいないほど手のこんだドレスだ。 さぞ高かっただろう。 ジェンは初めて、実の母の愛を感じ取った。
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