表紙
明日を抱いて
 20 作り話でも




 三分もすると、ジェンはすっかり二人の少女と打ちとけて、新しい中学校の話をいろいろ聞かせてもらっていた。 エイプリルはおっとりしていて優しく、マージにはピリッとした頭のよさがあった。
「クラスはね、三年と二年が二つ、一年が三つよ。 一年生は人数が多いの」
「この辺に住みつく人が増えたから。 オランダ人は前からいるけど、今度イタリア人も来たのよ。 やたら手を振り回してしゃべって、面白いんだ」
「私たちは同じクーパー先生の組。 おじいちゃんだけど、話がわかるいい先生よ」
「二組の受け持ちはアトキンス。 ひげを生やしてて声が大きくてね、進軍ラッパっていう仇名なの」
 私もクーパー先生の組に入れるといいな、とジェンは願った。 どちらも気立てのよさそうなこの二人と、同じクラスになりたかった。
 にぎやかにしゃべっていた声がいったん途切れたとき、マージが陽気に言い出した。
「あなたの家、どこ? 送っていこう」
 ジェンはなにげなく応じた。
「あの角を曲がった向こうよ」
 すると二人の少女は凍りついた。
 くつろいだ笑顔が一瞬で消えたので、ジェンはびっくりした。
「どうかした?」
「……ううん」
 最初に気を取り直したのは強気なマージだった。 なんとか口元をほころばせたものの、顔が不自然にこわばっているのは隠せない。 それでもできるだけ普通にふるまおうとしていた。
「何でもないよ。 ただ、おどろいただけ。 マクレディのおじさんは子供嫌いだって噂だから」
 ジェンは素早く考えた。
──これはきっと、ミッチさんの見た目から来る誤解なんだ。 あまり人見知りしない私だって、最初にバーンズ邸で姿を見たときはぎょっとなった。 あまりにも大きくてがっちりしていて、話し方もぶっきらぼう。 相手が子供でもおかまいなしに大人あつかいして甘やかさないし──
 でも、ミッチのそういうところがジェンは好きだった。 彼には裏表がない。 言ったことは全部本気で、すがすがしかった。
「そんなことはないと思う。 親切にしてくれるわよ」
「マクレディさんはあなたの親戚?」
 エイプリルが自信なさそうに尋ねた。 ジェンがミッチに全然似ていないので、不思議に思っているようだ。 それをいうなら、ジェンは血のつながったコニーともほとんど似ていなかった。
 だから、ジェンは堂々と胸を張って答えた。
「いいえ。 でも私、ミッチさんの養女よ」


 これで二人の驚きは頂点に達した。 人もあろうにミッチ・マクレディが養女を家に迎えるなんて! エイプリルは息をはずませ、くったくない様子のジェンの手を心配そうにつかんだ。
「勇気あるわねぇ。 怒ったらものすごく怖いでしょう?」
 本気で山の熊みたいに思ってる──ジェンはくすっと笑い出しそうになって、あわてて真面目な顔をつくろった。
「さあ、まだ怒られたことはないけど、たぶん怖いでしょうね」
「今のうちに逃げちゃえば?」
 マージが真顔でけしかけた。 すると急いでエイプリルがたしなめた。
「そんな無責任なこと言っちゃだめ。 えぇと、戻るところがあればいいけど」
 ああ、気を遣ってくれてる──ジェンは気を悪くしたりしないで、エイプリルの優しさに心を打たれた。
「孤児院から来たわけじゃないのよ。 お母さんが再婚することになって、結婚相手の人が子供嫌いだったの。 だからミッチさんが正式に引き取ってくれたの。 ありがたいと思ってるわ」
 これがジェンに背負わされた身の上話だった。 まったくの嘘というわけではない。 ヒルダは妹のコニーの体が目立つようになる前に連れ立って東部に行き、誰も知人のいない町でひっそりとジェンを出産させた。 そして自分と夫の子という触れ込みでレイクウッドに戻り、育てたのだ。






表紙 目次 文頭 前頁 次頁
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送