表紙
明日を抱いて
 9 順調な旅行




 バーンズ家の別荘からミシガン州の西部まで、直線距離でも千キロ以上ある。 きゅうくつな座席でなんとか眠りにつき、二度乗り換えてデトロイトに着いたところで朝になった。 次は最後の乗り換えで、グランドラビッズ方面へ向かう。 その前に腹ごしらえしておこうということになり、ジェンはミッチに連れられて、いったん駅から出た。
 町は活気に満ちていた。 まだ九時前だというのに機械の部品を積んだトラックが何台も列をなして通っている。 道にはやたら車が多い印象で、工場とみられる大きな建物に工員たちが三々五々吸い込まれていくのが目立った。
「去年、新しい会社ができたんだよ」
 ミッチがジェンの視線を追って説明してくれた。
「小型の自動車を作ってるらしい。 ほら、あそこを走ってるやつだ」
 振り向いたジェンは、バーンズ家の豪華な大型車の三分の二ぐらいしかなくて、作りも簡単だが丈夫そうな車を見て、思わず笑顔になった。
「かわいい」
 ミッチは鼻を鳴らした。
「ちっぽけすぎる。 あれじゃろくな荷物が積めんじゃないか。 あれで千ドルもするんだそうだ」
 ジェンの顔がまじめになった。 一般労働者の日給が二ドルから三ドルほどだから、千ドルというと普通の人が買える値段ではない。
「買うんなら中古のトラックだな。 うちはまだ荷馬車を使ってるが」
「じゃ、馬がいるのね」
 ジェンは嬉しくて息を弾ませた。 ジョージはしゃれた車を買ったが馬車も手放さず、引き馬を四頭飼い続けている。 それに乗馬用の馬も持っていて、ポニーにはジェンもよく乗せてもらったものだった。
「馬は好きかい?」
「ええ、大好き!」
 ミッチはうなずいた。 いつも一文字に引き締まった口元が、わずかにゆるんだ。


 駅近くの食堂でハンバーグとポークビーンズの朝食を取った後、二人は駅に戻り、十五分後にはふたたび車上の人となっていた。 よく晴れた朝で、空には丸い雲があちこちに浮かび、広々と平らな土地は緑に覆われていて美しかった。
 ミッチは相変わらず口数が少ない。 うるさく話しかけては悪いと思い、ジェンはこの旅のために本屋で探したミシガンについての本を手提げから出して、読み始めた。 その本によると、ミシガンという地名は現地の先住民チッペワの人々の言葉で、ミシガマー(大きな湖)という意味だそうだった。
 汽車は順調に走り、州都のランシングを過ぎて、昼過ぎにようやく終点のグランドラビッズに到着した。 そこから更に十マイル(約十六キロ)のところに、ミッチと連れ合いのコニーが住む小さな町、サンドクオーターがあるのだった。  





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