表紙
明日を抱いて
 6 急な離別に




 横を見なくても、ジョージが緊張を解いたのが雰囲気でわかった。 そして、どうしても残念そうになってしまう口調でマクレディに話しかけた。
「せっかく遠くまで来られたんですから、少し町見物でもしていきませんか? 今日はいい天気で、海もきれいですよ」
 だがマクレディはかぶりを振り、しびれるほどの深い声で答えた。
「もう帰りの汽車の切符を買っちまったもんで。 荷物はどこですか?」
 しかたなくジョージは引き伸ばし策をあきらめ、アテナの彫像と棕櫚〔しゅろ〕の鉢植えの間に固めて置いてあるカーペットバックの山を手で指した。
「あれです。 すぐ車に積ませましょう」
 鞄は大小とりまぜて四個もある。 その上に、丸くてかさばる帽子箱が半ダースほども載っていて、確かに自動車か馬車でなければ全部一度に運ぶのは不可能だった。
 マクレディは目をすがめて、大荷物をじっと眺めた。 それから短く言った。
「ありゃあ駄目だ。 大きな鞄二つと帽子を三個。 それなら持っていけます」
 ジョージが口を開ける前に、踊り場からワンダが駆け下りてきて、ジェンを引き戻した。 いつもは愛らしい目が怒りに燃えていた。
「そんな無茶言わないでください! 削って削ってやっとこれだけにしたんですよ。 女の子には夏服だけで普通この倍は要ります。 それなのに冬服まで入れてたったこれっぽっち……」
 さっき泣いたカラスがもう笑った、の逆で、ワンダは涙ぐみ、喉を詰まらせていた。
 だがマクレディはガンとして譲らなかった。
「うちのほうでは野良着と普段着と余所行きの三枚あれば足りるでね。 帽子も普段用と教会行きと二個ありゃいい。 作業のときの麦藁帽子は向こうで買うから」
 野良着、と呟いて、ワンダは言葉を失った。
 そのときジェンはというと、すでに素早い足取りで荷物に近づいて、服を選び始めていた。 中身はほとんど新品ばかりだ。 セレナとワンダが養女同然のジェンのために心をこめて選んでくれた素敵な服で、置いていくのは辛かったが、仕方がなかった。
 特に好きな三着を鞄に戻し、残りは小さいほうのバッグの上に畳んで載せた。 帽子は選ぶのがずっと簡単で、すぐ二つに絞り、両手に持った。 そして振り向いて、明るい声で呼びかけた。
「用意できました」
 マクレディはうなずき、大きい鞄を軽々と持つと、先に立って歩き出した。 ジェンは急いでワンダを抱きしめ、ジョージとも抱き合って別れの挨拶をしてから、岩のようなマクレディの後を追った。
 表にはジョージの用意した自動車が止まっていた。 そして助手席からジェンの育ての親ヒルダが半ば身を乗り出し、強くマクレディを差し招いた。
「ミッチ、乗って! 私が駅まで見送りに行くのを忘れたの?」






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