表紙
明日を抱いて
 4 やっと到着




 ゴードン一家の本拠地は、ニュージャージー州のレイクウッドだった。 海に近いその町は、、ニューヨーク市とフィラデルフィア市からほぼ等距離にあり、どちらにも事務所を構えるジョージにはうってつけの場所で、煉瓦造りの豪邸を建てて住んでいた。
 レイクウッドは避暑地としても有名だったが、ゴードン家はさらに気温が高くて長く泳げる場所を探して、ここのデラウェア湾岸にも別荘を買った。 また冬にはアディロンダックへスキーに出かける。 寒いのが嫌いな妻のシリアのためにフロリダまで遠征することもあった。
 そういう優雅な暮らしを、ジェンもゴードンの子供たちと一緒にずっと送ってきた。 だからスキーやスケートができるし、銃も撃てる。 まだ中学生だから正式なパーティーに出たことはないが、ワルツにポルカ、ラグタイムまで踊れた。
 お嬢さまではないのに、お嬢さま育ちになってしまった──それがジェンだった。 ゴードンの子供たちが心配するのは無理もない。 一家が育てた動物といえば、絹のような毛をしたアフガンハウンドのマリエルだけだから、農家の仕事がどんなものか見当もつかないのだ。
「マクレディって人が来ないなら、こっちも黙っていようぜ」
 それまでポットローストをせっせと食べていたピーターが、不意に顔を上げて会話に入ってきた。
「もうじきレイクウッドに帰るんだろ? 少し早めに出発して、知らん顔してよう。 あっちの住所は知らないんだから、面倒くさくなって引き取るの止めるかもな」
 まさにそのとき、廊下につながるガラス戸が開いて、メイドのカーチャが顔を出した。
「あの、ミッチ・マク……マクレーンという男の方が見えました」
 とたんに大きくて明るい食堂の空気がよどんだ。 ジョージとセレナはちらりと目を見交わし、セレナがカーチャに応えた。
「そう、ありがとう。 マクレディさんにはすぐ行くとお伝えして、オレンジの間にお通ししておいて」
「はい、奥様」
 カーチャが去った後、セレナは時計を見上げて、不満げに呟いた。
「一時半よ。 朝の十時に来るはずだったのに」
「きっと列車に乗りそこねたんだ」
 トニーがそっけなく言った。
「一時間に一本ぐらいしか通らないんじゃないか?」
「それにしても、三時間以上も遅れるなんて」
 ワンダが口をとがらせた。
 ジョージはひとつ溜息をつくと、ナプキンを置いて立ち上がった。
「わたしが挨拶してこよう。 ジエン、準備はゆっくり食べた後でいいからね。 もうどうせこんな時間だ」


 オレンジの間とは二番目に大きい客間で、来客が少人数のときに使う。 オレンジなどの静物を描いた絵が飾ってあることから、その名がついた。
 父が出ていった後、男の子たちは急いで食べ終え、フランス窓から出て客間を偵察に行った。 一方ジェンはワンダに付き添われて慌しく二階へ上がった。






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