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―エピローグ6―
会場中が、驚きの静寂に包まれた。
一番近くにいた香南が、実は誰より仰天した。
──私がもし先に死んだら、行矢さん後を追うの?──
これが他の花婿なら、雰囲気に酔ってつい大げさなことを、と、笑い飛ばせるかもしれなかった。 だが、それが蔦生だと洒落にならない。 感受性の強い思春期に、家族を丸ごと失っているからだ。
丈夫で長生きしなくちゃ、と香南は初めて思った。 これまでは若くて体力があるせいもあって、けっこう不規則な生活を送っていたし、食べ物も適当だった。
だが、これからは気をつけよう。 いつまでも新婚でふわふわしてはいられない。 まだ赤ちゃんができる兆しはないが、ぜひ産みたいし、元気に育てたい。
結婚届にサインしてから、この半年、想像以上に幸せだっただけに、香南は強い責任感を覚えた。
この暮らしをずっと続けていきたい。イチョウの樹が芽生え、豊かな新緑になって、やがて金色に包まれる華やかな晩秋を迎えるのを毎年楽しみにしながら、新居を整え、手直しし、くつろげる家庭を築きたい。
言葉を失ったように見える隣の夫を、香南は首を回して見つめた。 そして微笑んだ。
すると、知らぬ間に、予定にない言葉が口からこぼれ落ちた。
「逢えて、よかったね」
わずかに間を置いて、客席から一つの拍手が聞こえた。 香南が目で探すと、それは大きな笑顔を浮かべた広山医師だった。
拍手はすぐ、波紋のように会場全体に広がっていった。 妻をじっと見つめ返していた蔦生は、その音で現実世界へ戻ったように前を見て、頭を下げた。
彼と固く手を握り合ったまま、香南も同時にお辞儀をした。
顔を上げると、すっかり明るくなった蔦生が、弾む声で付け加えていた。
「ご清聴ありがとうございました。 恐れ入りますが、これから後半の会場に移っていただいて、食事会に入りたいと思います」
気配りのいい秘書の摂津が、すぐ歩み出て、女性の案内係三人と共に賓客の誘導にかかった。
大ホールには、そろそろ人が集まりかけていた。 こちらの会場はクリーム色とペルシアンブルーが主で、会社の大きさにふさわしく豪華にしつらえられていた。
事業上の関係者の場合、どうしても形のある結婚祝を持ってくる。 だから引き出物は立派にならざるをえなかった。
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