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表紙

crimson sunrise
―エピローグ3―

 山田桜と下谷葉子は誠意を込めて、新婚夫妻にお祝いを述べ、二人から幸せ一杯なお礼の言葉を受け取った。


 小規模といっても結構広い会場には、表の飾りに合わせた白と銀のクロスをかけて、丸テーブルが放射状に並んでいた。
 桜と葉子が、歓迎のメッセージと美しい小さなブーケが並んだそのテーブルに案内されて座った後、次々と招待客が到着した。 二人は一番乗りだったのだ。
 来た客は、すべて花嫁花婿が直接迎え、話を交わして歓迎した。 その間、若い男女のカルテットが、部屋のコーナーでムードミュージックやクラシックの小品を弾き続け、温かい親しみある雰囲気がかもしだされた。


 やがてテーブルはどんどん埋まり、後ひとつを残すのみになった。 最後に来る人は? と、入り口に目をやっていた桜は、思いもよらないものを見て、あやうく喉を詰まらせそうになった。
 グイッと袖を引っ張られて、葉子は斜めにずっこけそうになり、ぶつぶつ文句を言った。
「痛いって! どうしたの」
「ね、見て〜! クリソツだよ、クリソツ! 信じらんない」
「誰と誰が…… えーーっ?!」
 仕方なく入り口を振り返ったとたん、葉子は奇声を発しそうになって、あやうく口を押さえた。


 二人が目をむいて見つめているのは、秀紀と並んで入り口に立ち、笑いながら蔦生夫妻に頭を下げている江実の姿だった。
 爽やかなミントグリーンのアフタヌーンドレスに身を包み、柔らかいカールを肩まで垂らした江実は、申し分なく幸福そうに見えた。 秀紀との仲直りはうまく行ったらしい。
 そのせいか、普段以上に香南に似てしまった。 気を遣って、ドレスのデザインや色、髪型までバッティングしないように替えてきたのに、だ。
 男同士はさすがにぎこちなく、最初の挨拶が済むと、少し離れて無言になった。 そんな夫たちをそっちのけで、江実と香南は手を取り合い、顔を輝かせて盛んにしゃべっていた。
「やっぱり思ったとおり! すごく似合うわ〜」
「佐伯〔さえき〕さんって頼もしい感じで、こちらの話もよく聞いてくれるし、いい方でほんとよかった、紹介してもらって」
「いいドレスメーカーでしょう? デザイナーズブランドもいいけど、個人営業の仕立て屋さんで実力のある人って、ほんとに凄い。 私はお母さんの知り合いから教えてもらったの」
 二人がドレス話でどこまでも盛り上がりそうなので、蔦生がソフトに口を挟んだ。
「君たちが来てお客が揃ったから、そろそろ挨拶するよ」
「あ、ごめん、すぐ席につくね」
 江実がするっと室内に入った。 すぐその後に続こうとして、秀紀は蔦生の前で一瞬足を止めた。
 低く、ぎこちない声が、蔦生の耳だけに届いた。
「この席に君の家族がいないのは、俺のせいだよな」






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