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表紙

crimson sunrise
―エピローグ2―

 実をいうと、結婚披露宴への招待状は二種類あった。
 ひとつは公式なもので、主に蔦生の会社の部下や仕事関係の人々用だった。
 もうひとつは、親戚と親しい友人を招くためのものだった。 そちらの開始時刻は、メインホールで行なわれる宴より一時間前に設定された。


 招待状に書いてあったドレスコードは、セミフォーマルだった。 香南の元仕事仲間の山田桜と下谷葉子〔しもたに ようこ〕には、企業のおじさん達が大勢来るからおとなしめの服装のほうが浮かないよ、と香南が話しておいたので、二人は用心して、リクルートスーツのカラー版にフリルやプリーツのブラウスという格好でやってきた。
 食事会みたいなものだから、結婚祝は品物ではないものにしようと話し合ったのだと、香南は説明した。 招待状には銀色のカードが入っていて、そのカードにお祝いの言葉を書き入れて持ってくる、それだけでいいのだった。 友人代表としてスピーチや余興の練習をしなくていいので、二人はリラックスしていた。
 上品なエントランスから入ると、ライトグレーのスーツを着たハンサムな青年が二人を見て、にっこりした。
「山田様と下谷様ですね?」
「はい」
 二人は同時に答えた。 桜のほうはトーンが上ずり、葉子は喉がつかえたようになって声がかすれた。
「ようこそお越しくださいました。 招待状を預からせていただけますか?」
「はい……」
 桜が、ぼうっとした風情で彼に目を据えたまま、手を出した。 葉子も彼に見とれていて、口が開きっぱなしなのに自分で気づいていなかった。
 彼は廊下を一度曲がって、白と銀色で飾り付けられた入り口に二人を連れて行った。


 大きく開いた戸口に近づくと、扉のすぐ内側に香南が見えた。 純白のドレスの上にクリーム色のレースのオーバードレスを重ねて、髪はアップにしてから細かいカールを散らし、息を呑むほど美しかった。
 その横には、背の高い男性が立っていた。 てらいのない正装の服だが、体に完璧に添っていて、不自然な皺がまったくなく、着心地がよさそうだ。 目の飛び出るような値段の特注品だろうと、桜は密かに見当をつけた。
 二人の友人が摂津に案内されて来るのを見て、香南は嬉しさに手を叩いた。
「うわぁ、桜! 葉子! ありがとう来てくれて!」
「こちらこそ、ご招待ありがとう」
 葉子が口の中でもぐもぐ言った。 なんだか予想と違う、と、桜と共に気づき始めていた。
 そのとき、隣にいた大柄な婿さんが、低く穏やかな声を出した。
「こんにちは。 蔦生行矢です。 大広間へ行く前に、ここで親しい人たちと内輪の祝いをしたいと思っているんですよ」







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