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表紙

crimson sunrise
―139―

 そう言われて、改めて香南は自分の心をじっくりと探ってみた。
 彼が好きなのは間違いなかった。
 むしろ、好き、とか、愛してる、という言葉以上に、彼は香南の人生にいつの間にか食い込んで、生活の一部になってしまっていた。
 初めて彼をベッドの中で発見し、ど肝を抜かれたあの朝から、まだ一ヶ月しか経っていないというのに。
 じっくり考えながら、香南はゆっくり口にした。
「行矢さんは、優しくも冷たくもなれる人だと思う」
 額の上あたりで、蔦生が首を傾けるのが影になってわかった。
「うーん、まあそうだろうな」
「今のところ、私には優しい」
「今のところ?」
 蔦生が不満そうに身動きするのを、香南は片手でそっと胸を押して止めた。
「はっきり言って、めっちゃ優しい」
「そうだろ?」
「無理してない?」
 蔦生は瞳を翳らせ、香南の肩に両手をかけると、息がかかるほど顔を近づけた。
「全然!」


 彼の眼差しをしばらく見つめていた後、香南の顔にゆっくり笑いが広がった。 くりくりとした丸い眼が糸のように細くなって、頬がピンクに輝いた。
「私も無理してないよ。 一緒にいると気持ちがホワッとするの。 どっかに触っていたいなと、いつも思う。 手つないだり、寄りかかってたりね。
 ひっつき虫は、うざい?」
「いや」
 そう断言するなり、蔦生は香南の脇に手を入れて軽々と持ち上げ、ぴたりと胸に添わせた。
「無くした家族が全部、君に集まってる。 そんな気がするんだ。 なぜだろうな」
 素晴らしい言葉だった。 彼の愛した者をまとめたぐらい、大事に思っていると言われたのだ。
 それほど大きな愛情に応えられるかな、と、小さな不安が心をよぎった。
 だが、すぐに思い直した。 そのうち子供が生まれたら、彼のことだ、心底かわいがるにちがいない。 新たな絆が、二人を更に強く繋ぐ。 もし生まれなくても、二人が共に大切にできるものを飼えば……
「行矢さんまた動物飼いたい?」
 目を閉じてキスに移ろうとしていた蔦生は、不意に話題が変わったので思わず動作を止めた。
「え? ああ、生き物は好きだけど。 ただ、犬はもう飼いたくないな」
 香南は目を見張った。
「なんで?」
「僕の犬といったら、サイバーなんだ。 あいつしか考えられない」
 ボート事故で家族と運命を共にした犬か……。 見たことのない犬を想像して、香南は不意に目頭が熱くなった。 蔦生はどうやら、いったん好きになったものを一筋に守るタイプらしかった。







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