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―133―
だが、すぐに蔦生は真顔に戻った。
「ともかく、兼光は許せない。 こんなもの送りつけてきやがったんだ」
そう言って彼が携帯で開いたメールを、香南は目を近づけて読んだ。
「残念なお知らせです。
社長がお留守の間に、奥様は家出されました。
いくら社長が否定されても、江実夫人とそっくりなのは隠せませんから。
別れるにしろ、仲直りするにしろ、話し合いが必要です。 奥様探しに探偵を雇えば何百万円もかかります。
幸い、どこに行かれたか私が突きとめたので、五十万円頂ければ、すぐに……」
呆れて、香南は途中で声に出して読むのを止めた。
「こんなインチキ書いて……! 金額もハンパだし」
「誘拐と認めないのが、あっちの手なんだよ。 引っかかって、僕が五十万ぐらいならと出すだろ? すると、君を他所へ移して、間に合わなかった、また旅に出てしまった、と言って、次の金をせびる」
「あなたのこと、なめてるの? 途中で気づくに決まってるのに」
「そうしたら多分、君が自殺するかもしれない、と言ってくるんだろうな。 お互い暗黙の了解で」
「暗黙?」
問い返してから、香南は首筋が冷たくなった。
「つまり、殺すとほのめかすの?」
「そうだ」
ゾッとする話だ。 兼光と弟の軽い態度のせいで、香南はこれまで余裕があったが、初めて心から恐怖を感じた。
あの二人をなめていたのは、自分のほうかもしれない、と思った。
「そこまでやりそう?」
「さあな。 やりたくはないだろうが、なにしろあの女はカッとなると」
「わかった」
最後まで聞くのが怖くなって、香南は途中で遮った。
蔦生の手が、香南の腕をポンポンと叩いて慰めた。
「もう終わった。 無事でほんとによかった。 君が○○安全サービスのブザーを押して、現在位置を知らせてくれたからだ」
「それを言うなら、持たせてくれたあなたのおかげ。 兼光姉弟が携帯ばっかり気にして、ブザーの袋を開けなくて助かった!」
まだ誰も病室に入って来そうにない。 香南は改めて、蔦生にギュッとしがみついた。
「私は黙って家出したりしない。 たま〜に寂しくなることはあるけど」
蔦生が少し体を離して、香南の目をじっと見つめた。
「寂しい?」
「うん……。 行矢さんどこかへ行っちゃってる時があるでしょ? 会社に出たはずなのに、出社してないとか」
「ああ」
一瞬、蔦生は顔をくしゃくしゃにした。
それから、香南の額に軽くキスした。
「そりゃ、放っとけないな」
そして、腕時計を確かめた。
「午後の二時前だ。 腹減っただろう? もう動けるなら食事に行って、それから、どこへ行ってたか教えるよ」
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