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―132―
香南は、真っ先に治療を受けた。 被害者だし、意識が戻るのに最も時間がかかったということで、蔦生がとても不安がったのだ。
その後、香南は別室で休むように言われた。 もう大丈夫です、ピンピンしてます、といくら言っても聞いてもらえず、優しく最上等の一人部屋に押し込められて、仕方なく少し眠ることにした。
一時間ほどして目覚めると、ベッドの横に椅子を持ってきて、蔦生がじっと見守っていた。
目が合い、彼がおぼつかなげに微笑んだとき、香南は突然、深い安心感に包まれた。
もう一人じゃない。 何かあったら、この人が助けてくれる。 本当の本気で大切にしてくれてるんだ。
初めて、そう確信できた。 とたんに心臓がバクバク波打って、じっとおとなしく寝てなんかいられなくなった。
「行矢さん! 行矢さん……!」
思い切り抱きつくと、蔦生もすぐに強く抱き返した。 彼の鼓動も、胸の奥で大きく轟〔とどろ〕いていた。
「ごめんな。 僕のせいでこんな目に遭わせて」
香南は、締まった彼の胴を巻いて、しっかりと抱き寄せられるのが嬉しくてたまらなかった。
「いいよ。 怖かったのは初めだけだもの。
兼光さんは、うまく立ち回ってお金だけ手に入れればいいって感じだったんで、途中からは、いつ逃げ出そうかってチャンスうかがってたの」
「実行しないでくれてよかった。 兼光は逆上すると人格変わるから。 さっきスプレー撒きちらしてるのを見て、わかっただろう?」
香南は微笑んで、蔦生の肩に額をすりつけた。
「あの人、行矢さんのスパイしてたの?」
蔦生の背中が、わずかに強ばった。
「ああ。 いつの間にか二重スパイになってたらしいな」
「両方の仕事して、お金を取ってたのね」
「……そういう汚い話を、君には知られたくなかったんだ」
そうか、だからドアノブに引っ掛けた袋を見せまいとしてたんだ──香南はますます安心した。
「なんか、兼光さんは秀紀さんに同情的だった」
「情が移ったんだろ」
蔦生は冷淡だった。 でも、香南はもう一押ししてみた。
「秀樹さんは、すごく気が咎めてるって」
「なあ、君まであいつらの言い分信じるのか?」
やりきれない口調で蔦生が呟いたので、香南は彼を抱きしめている腕にもっと力を込めた。
「兼光さんより、江実さんと会って考えさせられたのよ。 あんな素敵な人が、秀紀さんを好きになったんでしょう? きっと、見た目よりいい所があるんじゃないの?
私にはわかんないんだけど」
最後の言葉で、蔦生はプッと吹き出した。
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