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表紙

crimson sunrise
―127―

 おや?
 風向きが変わった気がした。
 自信過剰と言い切れない明るさが、兼光には感じられる。 絶対に捕まらないと確信しているには、それだけの理由があるはずだ。 香南は、少しだけ下にあるキツネに似た顔に、低く問い掛けた。
「なんで行矢さんが、あなたを見逃すと思うの?」
「なんでって、行矢社長のためにスパイしてたから。 証拠あるんだ、実は」


 ええ?!
 どうなってるの、いったい?
 改めてキツネ顔を見直したが、嘘をついているようではなかった。 その顔は堂々としていて、ちょっと狡そうに微笑んでみせた。
「私が秀紀社長にナンパされたって聞いて、情報よろしくって。 気前よくお金くれたわよ」
「じゃ、この間高島尚美になりすましたのは?」
「あれは秀紀社長に頼まれたから。 彼が結婚して愛人契約切られちゃって、貯金できなくなっててね、臨時収入なんでもオーケー」
「両方からお金取ってたわけ?」
「悪い? 当然だと思うけどな」
 でも、蔦生は激怒したはずだ。 少なくとも、文句を言いには行っただろう。
 そこで、香南はピンと来た。 国分寺の駅で彼といた女性は、もしかしたら……。
「あなた、国分寺近くに住んでる?」
 たちまち、兼光の目に警戒の色が浮かんだ。
「……なぜそんなこと」
「駅で行矢さんといたでしょ。 電車から見えた」
 肩をすくめて、兼光は下を向いた。
「偶然ね……。 あのときはビビッた。 いつもクールな行矢社長なのに、まじで怒られた。 大声出さなくても、すごい怖いんだわ」
 だから慌てて、なだめようと思って彼の腕に手を置いたのか。
 ベタベタ系の兼光なら、やりそうだ。 香南は、胸に引っかかった疑いの雲が、思いがけない形で晴れたので、喜ぶと共に驚き、戸惑った。
「そんなに怖いのに、またこんなことしたんだ」
「うん」
 開き直って、兼光は頭を上げた。
「秀紀社長から完全に切られちゃって、行矢社長のスパイもできなくなったでしょ? 収入源なくなっちゃったじゃない。 だから、ここで一発がっぽり金取って、店開きしたいのよ」
「店?」
「そう」
 兼光の目がキラキラし始めた。
「南ヨーロッパのアクセを売るの。 キャミやワンピに合わせた、夏用のやつ。 お土産で買ってきて、友達に評判よかったから、ぜったい売れると思うんだ」







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