表紙目次文頭前頁次頁
表紙

crimson sunrise
―124―

 二分もしないうちに、部屋の外からガチャガチャという音が伝わってきた。
 誰かがドアの鍵を開けている。 香南は大急ぎでポーチに中身を放り込み、捨ててあった場所に戻した。 そして、作業台に這い上がって横たわると、目をつぶった。


 やがてドアが開く小さな音がした。 そこで立ち止まって、覗いている気配がする。 香南は心臓がバクバクして、怖くてたまらなくなった。 彼女を薬か何かで意識不明にしたとはいえ、縛って目かくしはしていない。 これじゃ、意識を取り戻したとき犯人の顔が見えてしまう。
 どうせ殺して口を塞ぐから、見えてもいいと思ってるんだろうか……!
 目を閉じて、無防備な状態でじっとしていると、怖さが倍増だ。 香南はやみくもに飛び上がって、犯人を突き飛ばして逃げ出したくなった。
 そのとき、話し声が聞こえた。
「まだ気が付かないよ。 だいじょぶ? ぶっかけすぎたんじゃないの?」
 女の声だ。 香南には、どこかで聞き覚えがあるような気がした。
 若い男の声で返事があった。
「知らねーよ、人のせいにすんなよ。 姉ちゃんが手伝えっていうから、付き合ってやったんじゃないかよ」
「今さらグチ言ってどうすんの? ともかく、揺すってみよう。 それで息吹き返さなかったら、水かけてみる。
 ねえトキ君、水入りのペット買ってきて。 あ、氷もね。 冷たいほうが効き目あるよね?」
「知るか。 買い物行くなら、ほら」
「何よ、その手」
「金」
「ペットぐらい買えるでしょう!」
「手間賃込みで千円」
 兄弟なのに細かいーと嘆きながら、女誘拐犯は財布を出して、金を渡したようだった。


 スニーカーのかすかな足音が遠ざかっていった。 薄目を開けて確かめたいのを我慢しながら、香南は胸を撫でおろした。 殺す予定はないようだ。 少なくとも、今のところは。
 それにしても、緊張感のない犯人たちだ。 誘拐は重罪なのに、子供のいたずら程度の自覚しかないらしい。 香南があきれていると、女が徐々に近づいてきた。
 どうやら、結構びびっているようだ。 ためらいがちにやってきて、腕をちょんちょんと軽く突ついた。
「ねえ」
 香南は反応しなかった。 すると女は、おろおろ声になった。
「ねえ、起きてよー。 あんたが死ぬとか植物人間になるとかなっちゃったら、お金もらえないじゃないのよぉ」





表紙 目次文頭前頁次頁

背景:ぐらん・ふくや・かふぇ/ボタン:May Fair Garden
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送