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―121―
翌朝、蔦生は大幅に寝坊して、秘書の摂津からの連絡で起こされた。
片目をシパシパさせながら電話を取った蔦生は、二言三言聞いたとたんにベッドに跳ね起き、叫んだ。
「やばっ! ありがとう、すぐ行く」
たまたま香南も付き合って二度寝していたので、枕から顔を上げて眠そうに尋ねた。
「遅刻?」
「うん、ここ十年ぐらいで初めて」
香南は肘をついて体を起こした。 彼の予定を知らされていたわけではないので、責任はないと思うが、それでも妻だからなんとなく気が咎めた。
蔦生はベッドから飛び降り、シャワーを浴びながら口腔洗浄剤で口をゆすぎ、ズボンを穿きつつ靴下を探すという、軽業みたいなことをやっていた。
香南も、はらはらしながら起き上がったが、蔦生は両手を上げて制止した。
「大丈夫。 寝てなよ」
「やばいんでしょう? なんか取ってくる物とか、ない?」
「持ち物はここに準備してあるから。 朝飯はスタンドで食うよ」
「うん……いつも用意がいいね。 摂津さん楽ね」
「そうでもないらしいよ。 社長は秘密主義で困る、と何度も言われた」
香南はベッドに腹ばいになって、心の中で頷いた。
──そうそう、摂津さんの言う通り。 行矢さんは肝心なことを話してくれない。 江実さんのことだって。 それにドアノブに嫌がらせする相手のことも──
教えてくれたら、ずっと心が落ち着くのに。 でも香南は、彼を問い詰める決断がつかなかった。 こんなに優しい夫はいない。 大事にされて幸せな毎日を、口論で濁したくないのだった。
蔦生が急いで出ていった後、香南は朝食と昼食を一緒にした軽いブランチを、オープンサンドで取り、家具が届くのを待った。
午後に来たラック二台を組み立てるのは、予想より時間がかかった。 しかし、苦労しただけに出来上がりはなかなか立派で、壁際に置いて物を入れると、思った以上にすっきりした。
「あー、また部屋が元の広さに戻った〜」
香南がご機嫌で、いつまでも目を離せずに見とれていると、玄関のチャイムが鳴った。
疲れた腕を突っ張って、香南は立ち上がった。
近づく足音を聞きつけたのだろう。 外廊下から高めの声がした。
「宅配です。 ○○便で〜す」
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