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―119―
年の近い女同士だから、話せばいくらでも続きそうだった。
だが、辺りが真っ暗になると、江実のほうがそわそわし出した。
「もう行矢さん帰ってくるんじゃない? 私も……ええと、あいつに電話かけてみようかな、なんて」
それから、期待を込めた目で香南を見やった。
「秀紀が私の自慢してたって、ほんと?」
「嘘つくわけないでしょう」
だいぶ江実になじんだ香南がケタケタ笑うと、江実はちょっと唇を噛んで照れた表情になった。
「じゃ、もうそろそろ許してやるか。 でも、帰ったら玄関に女の靴があった、なんてことにならないといいけど」
「えー、秀紀さんてそんなことする人?」
香南が大げさに驚いたので、江実は急いで首をブンブン振った。
「ちがうちがう! 今のはただのジョークですって」
何時の間にか、二人には仲間意識のようなものができつつあった。
コーヒー店から駅までは、歩いてほんの数分だった。
エスカレーターのある駅前まで送っていって、携帯番号を入れ合って見送った後、賑やかなネオンの下を歩きながら、香南は今ごろ気づいた。
──そうだ、昨日行矢さんが彼女と会ったかどうか、訊くの忘れた──
しかし、遠目で見て想像していたのとは全然違う江実を知って、香南の不安はかなり、いやほとんど消えかけていた。
駅で蔦生にしなだれかかっていたのは、たまたま会った水商売の女性かもしれない。 あのさばさばした江実がそんな態度を取るなんて、もう考えられなかった。
フンフフーンと鼻歌を口ずさみたい気分で、香南は角を曲がり、アパートの正面にたどり着いた。
二歩中に踏み込んだところで、簡易駐車場から蔦生が飛び出してくるのが見えた。 彼はカーブを切りながら凄い勢いで回ってきて、あやうく香南にぶつかりそうになった。
「あれ、出かけてた?」
香南はきょとんとした。 暗くなったとはいえ、まだ日が落ちて一時間しか経っていない。 町は賑わっているし、買い物する主婦も沢山いた。
「うん、駅近くの『レジェーレ』で……」
「コーヒーショップの?」
「そう。 そこで……」
「教室の仲間と会ってたんだ?」
「そうじゃなくて」
説明しようとする香南の前で、蔦生の顔から血の気が引いた。
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