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―117―
視線を感じて顔を上げると、江実が小首をかしげるようにして、こっちを見ていた。
「なんか意外そうねぇ。 私たちがずっと友達なの、知らなかった?」
知っていて当然、という言葉遣いに、香南は少しムッとした。
またモヤモヤがぶりかえしてきた。 行矢さんが話してくれないから、まずい立場になってるじゃないか。 やっぱり先に江実さんに憧れていて、それで……
「彼、私のこと親分って呼ぶのよ。 ボスじゃなく、女親分なんだって。 どういうの、それ? って訊いたら、人の面倒ばっかり見てるからだって」
眉を八の字に寄せて、江実は溜息をついた。
「世話焼くの、好きなんだもの。 でもお前のは甘やかしすぎだって、行矢さんは言うのよ」
「お前?!」
言葉が柔らかで、香南を『君』と優しく呼ぶ蔦生が、この美人を『お前』呼ばわりしてる?
香南はだんだん、頭が混乱してきた。
「そうよー。 なにが女親分よねぇ? 人のこと子分扱いしてるくせに。 最初に会ったときから、ずっとそう。
でもね、他の男の子はみんな私を頼ってくるけど、行矢さんだけは私が困ったときに、文句言いながらでも助けてくれる、貴重な存在。
それでね、ご挨拶したかったの。 彼がやっと見つけた大切な人に、誤解されて嫌われたくないから」
香南の首筋が、フワッと温かくなった。
その微熱は、ゆっくりと顔に染みとおって、頬を淡いバラ色に変えた。
さっき、ストーカーもどきに踏ん張っていた呉に、江実が言った言葉が思い出された。 何回も惚れて、逃げたり逃げられたりして、泣いたこともある、という打ち明け話を。
恋多き女だけれど、浮気者じゃない。 むしろ真剣にのめりこんで、尽くしすぎて、相手が息苦しくなったり、または図に乗って利用しようとしたりするのではないか。
正直で、不器用な人なんだ。 まさに蔦生のような情の深い男性が、見ていられなくて救いの手をさしのべたくなるタイプの。
でも、それは恋じゃない。 妹への愛に近いものだ。
そう、たぶん江実は、蔦生行矢の擬似家族だったんだ。
そう考えが及ぶと、『お前』という呼び方の理由も説明がついた。 香南は心の雲が晴れて、青空が広がった思いがした。
江実のように開けっぴろげな性格ではないので、少し用心しながら、それでも誠意を込めて、香南は答えた。
「こうやって話ができて、よかったです。 江実さんは、行矢さん側の事情をよくわかってるみたいだし」
江実は、力を入れて何度も頷いた。
「ええ、言葉にならないほど気の毒。 秀紀と一緒になったからといって、彼のしたことを弁護する気はないわ」
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