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表紙

crimson sunrise
―110―


 強く揺り動かされて、目が覚めた。
 すぐ上に蔦生の顔があった。 心配そうに見下ろしている。
「どうした? また気絶したか?」
「ちがうよー」
 香南は急いで肘をつき、体を起こした。 蔦生が背後に座り込んで支えた。
 腕に手を添え、そのまま胸に引き込んでもたれさせながら、蔦生は再び尋ねた。
「じゃ、気分悪いか? 部屋に入ったとたんに大の字で伸びてるから、びっくりしたぞ」
「うーん」
 香南はあいまいな返事でごまかした。
「ちょっと疲れて、居眠りしただけ。 買い物に行ってね」
 蔦生は香南の胸の前で腕を交差させると、ダークブラウンに軽く色を入れた彼女の頭に顎を載せた。
「摂津が、君から電話があったと言ってた」
 たちまち香南の頬が真っ赤になった。 うっかりうたた寝してしまって、言い訳を考える暇がなかったのだ。
「ええと、棚をね、買おうと思ったの。 ここんとこゴチャゴチャしてきたでしょう? それで整理したくて」
「君の気に入ったの買いなよ。 君の好み好きだし、文句なんて言わないから」
「うん……でも会社に電話かけて、悪かった?」
「どうして?」
 蔦生は驚いた様子だった。
「仕事中だから? 香南はきちんとしてるんだね。 しょっちゅうかけてくるわけじゃなし、気にすることないよ」
 それから一呼吸置いて、楽しげに付け足した。
「摂津が褒めてた。 気持ちのいい話し方する人ですね、だって。 あいつ丁寧だがお世辞は絶対言わないやつなんだ」
 香南は黙っていた。 なんだか気が咎めた。 すると、蔦生が抱きしめたまま、ゆらゆらと揺らしながら囁いた。
「なんか言って。 黙ってられると不安になる」
 香南はびっくりした。 蔦生はいつも静かな自信に満ちているように見える。 そんな彼が、不安を感じるなんて。
 肩越しに顔を振り向けると、頬にキスされた。 低い声が続いた。
「強引に結婚急がせちゃっただろう? 今になって後悔してない?」
「私が?」
 思わず驚きが声に現れた。
「するわけないじゃない。 だって私……」
 そこで香南は、前のめりになりそうになった。
 不意に頭の雲が取れて、中に隠された本心がビックリ箱のように飛び出してきたのだ。
 わざと気絶したんだもの、という、自分でも信じられない言葉と共に。








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