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表紙

crimson sunrise
―105―


「結婚したばっかりで、そんなのあり? それじゃ成田離婚みたいなもんじゃない?」
「そこまで言うか!」
 秀紀も大声になった。
「離婚なんてする気ないぞ! おまえ大体おおげさなんだよ」
「新婚ホヤホヤで、もう浮気の心配してるあなたのほうが挙動不審」
「浮気なんて誰が言ったよ! 手出したのはそっちの亭主だろ!」
 喜んで会いに行ったのはそっちの奥さんじゃない、と言いかけて、香南は止めた。 アホらしくなったのだ。
 秀紀は子供みたいなところがある。 売り言葉に買い言葉となると、いつまでも電話が終わらない。
 呼吸を整えてから、香南は気持ちを落ち着けて言った。
「ともかく、あなたの奥さんのほうから出かけたのね?」
「そうだよ」
 秀紀はしぶしぶ答えた。
「じゃ、行矢さんにあなたの家庭を壊す気はないと思う」
「どうしてそう言える?」
「彼はフットワーク軽いもの。 積極的だったら自分が行く。 来るか来ないかわからないのに、待ってたりしない」


 秀紀は数秒間、香南の言葉について考えていた。
 それから、少し明るさを増した声で応じた。
「なんかさ、あんたが言うと説得力あるな」
 おまえがあんたに昇格した、と、香南は可笑しくなった。
「秀紀さんは、奥さんが大好きなのね」
「当たり前だろう? 創業六十周年のパーティーで、行矢のやつが連れて来てるのを見たとき、ドキッとしたんだ。 たぶん一目惚れ」
 確かに江実という人は華がある。 私よりずっと──心がスッと冷たい風にさらされたような気がしたが、香南はこらえた。
「奥さんにも調査員つけてるの?」
「なに?」
「あなたが私たちを調べさせてるの、わかってるから」
 はっきり指摘されて、秀紀は閉口したようだった。
「あんたさ……行矢から聞いてるんだろ? オレ達が仲悪いこと」
「聞いた」
 陰の事情まで知っているというそっけない口調で、香南は答えた。 すると秀紀は早口になった。
「あいつの言い分だけ信じるなよな。 オレだっていろいろ……ともかく、嫌われてるとなると、こっちもガードしなくちゃならないんだよ」
 心なしか、その声はどこか自信なさげに聞こえた。











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