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表紙

crimson sunrise
―103―


 その日は、昼前からどんどん気温が上がった。
 香南はキッチンと居間の掃除をしているうち、蒸し暑さに耐えられなくなり、今年初めてエアコンのスイッチを入れてからシャワーを浴びに行った。
 

 半時間経って、涼しくなった居間に戻ってきた直後に、電話が鳴りはじめた。
 蔦生がセットしてくれた『初めてかけてきた人』用のメロディだ。 香南は携帯を取り上げて、表示を見た。 知らない番号だった。
 非通知ではないので、一応つないだ。
「はい?」
 覚えのある声が、小さく聞こえた。
「今、一人か?」
 誰だか見当はついているが、挨拶もしないでぶしつけな質問が飛んできたので、香南はムッとした。
「なぜそんなこと訊くの?」
「おう、誰だかわかってるらしいな」
「蔦生秀紀さんでしょう?」
「その通り」
 篭もっていた声が、少し大きくなった。
 やっぱり──香南は電話を切りたくなったが、一応秀紀も夫の関連会社の社長である以上、ただの我がまま男として粗末に扱うのはためらわれた。
「私の携帯番号、どこで調べたの?」
「まあいいじゃないか、そんなこと。 それより、真面目な話があるんだ。 今日の午後、どこかで会わないか?」
「はあ?」
 思わず、香南は気の抜けた声を出してしまった。
 秀紀は彼女の反応に構わず、ぐいぐい押してきた。
「だって今日は暇だろ? 通ってる教室は月曜と木曜だし、行矢は会社で」
「ご用件があるなら、電話で話して」
 毅然として香南が言うと、秀紀は早口になった。
「電話だと、ちょっとまずいんだ。 落ち着いて話せるところがいい」
「二人きりでってこと? 行くわけないじゃない」
 香南はやりきれなくなった。
「お互いの立場を考えてみて。 それに、電話で話せないような内容なら、話さないほうがいいと思う。
 じゃ、もう切りますから」
「ちょっと待って!」
 秀紀はえらく慌てたようで、声が裏返った。
「この間イヤミなことを言ったのは、あやまるよ。 悪かった。
 今度のは、大事な話なんだ。 損はさせない。 会う場所も君が選んでくれていい。 それでどう?」











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