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表紙

crimson sunrise
―99―


 新しく取り付けたロックをリモコンで解除すると、桜は妙に納得した。
「ああ、女の一人暮らしだからね。 用心しないと」
 香南はどう答えたらいいか迷い、結局どっちつかずの問いに逃げた。
「桜ちゃんはお姉さんと一緒だけど、やっぱり用心してる?」
「うん、まあ。 うちの姉ちゃんは美人だからねぇ、後つけられたりするのよ」
「美人姉妹だったんだ、桜ちゃんちは」
 桜は顎を引いて、香南を見つめ返した。
「えー、いつからお世辞言うようになった?」
「お世辞じゃないよ」
 声が自然と低くなった。 最近、上品な奥さんたちと付き合うようになって、そつなく振舞うのが癖になってしまったらしい。
 気が付くと、桜はまだ香南の顔をしげしげと眺めていた。
「コスメ変えた?」
「ううん、同じの使ってるよ」
「なんか、雰囲気ちがう」
 もう誤魔化しきれない。 これから部屋に入れば、蔦生の物が目につくかもしれないし。
 香南はカミングアウトの決心をした。
「それはたぶん……」
「たぶん?」
 半畳の玄関に入り込んで、ドアを窮屈に閉めたすぐ後、香南は照れながら言った。
「結婚したからだと思う」


 桜の顎が、がくんと落ちた。
「ええ? ケッコン?!」
「うん」
「冗談なしよ?」
「まじで」
「えー、えー〜〜!」
 桜の表情が変わり、いきなり右手で拳を作って激しく振った。
「なんで知らせてくんないの! 冷た〜い!!」
 あわてて香南は説明した。
「式は挙げなかったの。 市役所に行っただけ。 披露宴は秋にやるから。 そのとき招待するから、来てくれる?」
「それって私がたまたま今日来たからでしょ? 来なくても忘れなかった?」
 桜はまだすねている。 同じ派遣会社に登録していたといっても、顔を合わせる機会が多かったぐらいで、親友とまでは思わなかったが、ここまで好意を持っていてくれたと知って、香南はジーンとなった。
 今日も心配してわざわざ訪ねてくれたんだし──香南は狭い玄関で、桜をぎゅっと抱きしめてしまった。
「決まってるじゃん! 来てくれてありがと! ほんと急に決めた結婚だったんで、こっちも混乱してて、まだ誰にも言ってないの。 実家の親にも、昨日やっと話したぐらいで」
 本当に突然だった。 江実という人が式を挙げた直後、不意に申し込まれたんだ……
 改めて思い返して、香南の胸に冷たい衝撃が走った。










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