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表紙

crimson sunrise
―77―


   コテージの外側はしゃれたキノコのような趣きだったが、中に入ると一転してログキャビン風になっていて、清潔な木の香りが心地よかった。
 一戸ごとに、大きくて設備の整ったバスルームがついていた。 ジャグジーやバブルバスや、いろんな付属品が試せる。 大きな黒いパネルを調べているうちに、二人は童心に帰って遊び出した。
 服を着たままジェットシャワーを掛け合うというばかな真似をした後、二人は笑いさざめきながら広いバスタブに転がり込んで、お互いに脱がせ合った。
「帰るときどうする?」
「裸で運転しようか。 昔の映画で、ピーター・セラーズだったかな、きれいな女の子とやってたよ」
「やーだ、そんな勇気ないって」
 思いついて、蔦生が本館に電話して、クリーニングして明日朝に持ってきてもらうことにした。


 蔦生の腕に囲い込まれて、目を閉じていると、深い安心感が心を覆った。 こんなにゆったりした気分になったことはない。 これほど相性のいい人に出会ったことも、かつてなかった。
 目をつぶったまま体を摺り寄せると、蔦生は胴を引きつけて、顔のあちこちにキスしてくれた。
「何も言わないね」
 香南は、うっすらと目を開いた。
「何を?」
「いや」
 珍しく言葉を濁すと、蔦生は香南の髪を撫でた。
「ほしいもの、何かないかと思ってさ」
「ほしい? だって」
 もうあなたがいるじゃない、と言いかけて、香南は口をつぐんだ。 本当の本心だが、口に出せば奇麗事すぎるような気がした。 差し当たって、他に欲しいものはないが、それも格好つけていると思われたら嫌だし……。
「ゆっくりと生きてくのが好きなの。 ドカッと大きく手に入れちゃうと、失うときも大きいんじゃないかと思う」
「ああ、なるほど」
 やや熱意のない声で、蔦生は相槌を打った。
「失うとき、か」
 香南はハッとした。 家族を一度に無くした彼に、思い出させるようなことを言ってしまった。
「ごめんなさい、無神経で」
「いや」
 蔦生は、不意にニヤッとして、香南の額を突ついた。
「気遣わなくていいよ。 かえって空気が重くなる」









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