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これは聞き捨てならない。
香南は姿勢を正し、両足を強く踏ん張って、まっすぐ蔦生秀紀を見つめ返した。
「何が言いたいの?」
一瞬間を置いてから、秀紀は苦い笑いを浮かべた。
「おっ、強気だねぇ。 いいよ、教えてあげよう。 まず、これを見て」
彼が内懐から引っ張り出したのは、キャビネ版ぐらいの大きめの写真だった。
香南のほうへ掲げながらゆっくり縦にすると、若い女性のクローズアップになった。 その顔に見覚えがあったので、香南は思わず前に身を乗り出した。
もしかして、私……?
秀紀の苦笑いに、皮肉めいた色が混じった。
「似てるだろ? こうやって傍で見ても、クリソツと言えるな」
困惑しながら、香南は体を引いた。 顔立ちは確かによく似ているが、写真の女性は髪型が違った。 香南より長く、右へ流して細かくカールさせている。
「誰の写真?」
香南が用心しつつ訊くと、秀紀は歯を見せて本格的に笑った。
「吉田江実〔よしだ えみ〕。 俺があいつから横取りした」
香南の頭の芯が、小さく引きつれた。
だがまだ、どうってことはなかった。 仕事で大きく負けている秀紀のことだ。 ライバル心で色んな妨害工作をして、私生活でも蔦生行矢の不幸を願うだろう。 そんな見えすいた罠に引っかかってたまるか。
決意して顔を上げると、秀紀が哀れむような表情になっていた。
「かわいいだろ? 君とおんなじ。
でも中身が違う。 ○○学園から××女子大を出て、ヨーロッパ留学してんだぜ。
それに、家は大金持ちだ。 一流の製薬会社で、新薬の開発で株も上がってる」
「私に恋人の自慢しても意味ない」
香南はそっけなく遮った。
「その人はその人。 私は私」
「実は顔も、君より上。 この写真は、写りが悪いけど君に似てるの選んだんだ」
秀紀は、にやにやしながら言いつのった。
香南はムッとしたが我慢して、彼のよく動く目から視線を外さなかった。
「それはよかったわね。 もう話がすんだんなら、行くわよ」
「逃げるのか?」
秀紀の声が、静かな路地に高く響いた。
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