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―47―
「やっぱり迎えに行くよ。 すぐ車出す。 今どこら辺?」
「もう追っかけてこないと思うんだけど」
「いや、それでも行く。 君をこのごたごたに巻き込んだのは僕だから。 ごめんな、ほんとに」
沈んだ声に、香南は蔦生の苦い後悔を感じ取った。
「天王洲アイルであんなことしたせいだよな」
「それは違う」
香南は急いで訂正した。
「あんなことやこんなことしたのは、私だった。 蔦生さんのはフェイクだったのに、私がリアルにしちゃったせい」
また少し沈黙があって、蔦生の声音が変わった。 明るさを取り戻して、ちょっとからかう調子になった。
「あんなことはした覚えがあるが、こんなことはまだしてないと思うぞ」
「うん」
香南はクスクス笑った。
「でもなあ、たかがキスぐらいで、思い込み激しいよなぁ」
「私もそう言ったの。 同じアパートっていっても別の部屋だし、私の生活まったく変わってないんだしね。 調べればわかると思うんだけど」
「男女の友情なんて想像できない奴だからな」
「その、あなたを邪魔してるっていう人?」
「ああ」
蔦生は短く答え、もう一度訊いた。
「で、どこにいる? そろそろ駐車場に着くんだが」
かっきり十二分で、蔦生の車は、道の角を占めるホームセンターの建物を回りこみ、狭い路地の手前で止まった。
ちらちら顔を覗かせて到着を待っていた香南は、蔦生が開けたドアに素早くすべりこんだ。 車はすぐ発進してそのまま行き、次の四つ角で右折して、表通りに出た。
まっすぐ前を見て的確に運転しながら、蔦生は静かに促した。
「初めから事情を話して。 どこで兼光、じゃない高島に会った?」
「あの人の本名は、兼光なの?」
「たぶん。 兼光邦代〔かねみつ くによ〕っていうんだ。 今度写真見せるよ。 元はうちの社員だったから」
それから、香南は女との待ち合わせと揉め事の様子を詳しく語った。
話を聞いた後、蔦生はしばらく考えていた。
それから、重い口調で言った。
「あいつにしちゃ、いいとこ突いてきたな」
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