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表紙

crimson sunrise
―43―


 相手はなかなか出なかった。
 それで高島はますますいらいらして、電話を持っていない手の指先で、ダッシュボードを叩き始めた。
 爪が長いから、金属的な音がする。 カチャッ、カチャッ、というせわしない音の羅列に、香南も次第にいらついてきた。
 止めてくれ、と言おうとして口を開きかけたとき、電話相手が反応した。
「あ、私です」
 高島は体をわずかに曲げ、ふてくされた声を出した。
「ええ、今交渉中なんですけど、なんか態度が悪くて」
 なに?
 香南の目が険しくなった。 そして、戦闘モードに切り替えて、座りなおした。
 ざけんじゃないっての! 態度がおかしいのは、テメーのほうじゃ!!
 高島は、首振り人形のように頷いていた。
「はい、はい、はい」
 それから、受話器を手で押さえて、香南に向き直った。
「一千万も要求されてるのよ。 それでも平気なの?」
 香南はめげず、質問で返した。
「電話に出てるの、蔦生さんですか?」
 一瞬、高島は躊躇した。
「え、ええ。 そうよ」
「電話、代わってもらえますか?」
「だめっ!」
 高島は、砕けそうになるほど電話を握りしめると、背中の後ろに回してしまった。
「ちょっと。 何考えてるのよ、あんた」
 だんだん言葉が汚くなる。 地が出てきたらしい。
 香南は半眼になって、胸で腕を組んだ。
「私は信じません。 蔦生さん本人の口から、じかに聞くんじゃなければ」


 二人の視線が空中でぶつかり、火花を散らした。
 先に目が動いたのは、高島だった。 斜め横に目線がずれ、唇がくやしそうにピリッと引きつれた。
 背後から携帯を引き出すと、高島は猛烈なスピードで相手に訴えた。
「聞きました? 聞こえたわよね? 居直ってるんだもん、どうしようも…… え? なに? よく聞き取れないんだけど」
 こんなのと付き合っていても、時間の無駄だ。 それより、一刻も早く蔦生に連絡して、新たな妨害らしいものが始まったと知らせたほうがいい気がした。
 高島が電話へまくしたてている間に、香南はドアに手をかけて、開けようとした。
 すぐ、高島の金切り声が響いた。
「あんた! 何してるの?」
「帰るの。 今日はさんざん働いて、疲れてるんだから」
 高島は、座席に電話を取り落とした。
 それから、信じられない行動に出た。 いきなり車のエンジンをかけて、一気に発進した。







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