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―42―
バインダーを開き、せわしなくページを何枚かめくって、高島は目的のものにたどりついた。
パッと派手な身振りで書類を一枚引き出すと、彼女は二音ほど声の音程を上げて、華やかなほどの口調で言った。
「ほら、こちら。 わかりますでしょう?」
紙を渡されて、香南は黙って見入った。 それはA4サイズほどの大きな印画紙で、写真のコピーが七枚ずらりと並べられていた。
そのどれにも、蔦生と香南が写っていた。 アパートの前で話しているところ、肩に手を置いて車に乗り込もうとしているところ、そして天王洲アイルでの例のやらせキスの場面もバッチリと。
ふうん。
醒めた気分で、香南は顔を上げた。
「それで?」
「それでって……」
高島は一瞬声を呑み、それからやっきになった。
「こんなもの送りつけられたんですよ。 スキャンダルでしょう?」
「そうなんですか?」
逆に、香南は驚いて問い返した。 その様子がふてぶてしいと誤解されたらしい。 高島は、ふくれて不機嫌になった。
「だって、キスしてるでしょ! ほら、はっきりと」
「これ、道ですよ。 ちょっと呑んで、勢いでキスしちゃうこと、ないですか?」
「えぇっ?」
「賭けして負けて、罰キスとか、やるじゃないですか」
「やりません!」
突如高島は、眉を逆立てた。 もてないと言われたと邪推したようだ。
「ふざけた生活送ってるのね!」
「フツーですよ」
「あなたね、蔦生さんの地位と立場を考えなさいよ。 困ってらっしゃるのよ。 愛人を同じアパートに囲ってるなんて会社で知れたら、立場がぐらぐらになるんだから」
こいつ、何言ってるの?
香南も、そろそろ切れかけてきた。 こんなガセねたを堂々と持ちこんできて、いったい目的は何なんだ。
「蔦生さんが困ってるんですか?」
「非常に」
「なんで?」
「だから……!」
高島の顔が、まだらに赤くなってきた。
「お……お金を要求されてるのよ」
「誰に」
「そんなん……わかるわけないでしょ! 脅迫者によ」
「蔦生さんが?」
まるっきり信じていないのが、香南の態度にはっきりと出た。 高島は、二秒ほど香南の顔をにらみつけた後、いきなりデコの携帯を出して、荒っぽくボタンを押した。
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