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―41―
前もって、次に行く仕事場を確認したことはあったが、雇い主がわざわざ会いたいと言ってきたのは初めてだった。 普通は臨時雇いにそこまで手間はかけない。
それでも、紹介所からの電話だし、依頼してきた会社の名前も合っているので、間違いではなかった。 香南は首を傾げながら、その遊園地とやらの位置を携帯で調べ、現在位置から目と鼻の先だと知って、ややホッとした。 これなら歩いていける距離だ。
ただでさえいろいろ詰め込んでいる上に、小型消火器まで入れて、バッグがズンと重くなっている。 ぐいっと肩紐を首の近くまで上げ直すと、香南は一つ根性入れの息をついて、やや日差しが暑くなってきた正午近くの舗道を歩き出した。
銀色のフェンスを巡らした遊園地の前まで来たとき、横の広い駐車場に停まっていた灰色の車から、若い女が降りてきて、香南に声をかけた。
「あの、里口さんですか?」
香南はすぐ立ち止まって、女を見た。 茶色のパンツスーツをきちんと着て、チェーンのついた同色の眼鏡をカッチリとかけている。 いかにもデキる感じだが、あまりにも典型的すぎて、逆に浮いていた。
「はい」
香南が明るく答えると、女は口元だけで笑い返し、いくらか鼻にかかった声で言った。
「ニュークリア・エンタテインメントの高島です」
そして、社用の名刺をカード入れから出して、香南に渡した。
「あ、恐れ入ります」
両手で受け取ったものの、香南は戸惑っていた。 どういうことだ。 なんでこんな正式な応対をしてるんだ?
名刺によると、リエゾン・オフィサーという役職名らしい高島尚美〔たかしま なおみ〕という女性は、眼鏡に手を置いて位置を直した後、声を低めた。
「ここでは何ですから、車の中で話しません?」
「え? はい」
香南は誘われるまま、ゆったりした車に体を入れた。
香南が助手席に座ってドアを閉じると、運転席の高島は黒いバッグからバインダーを取り出した。 そして、感情の篭もらない口調で、流れるように話を始めた。
「ビジネスライクに行きましょうね。 うちの会社は、エンタープライズ・ツタオの子会社なんですよ」
ツタオ、という響きに、香南はくりっとした目を上げた。 蔦生さんの会社って、そういう名前なのか。
「最近は企業の業績だけでなく、CEOなどの素行も攻撃のネタにされやすい世の中でしてね」
ソッコウ? 何を速攻するんだ? なにしろ相手は早口で、香南はわけがわからなくなってきた。
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