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表紙

crimson sunrise
―29―


 眼のきれいな香南は、確かに付け睫毛の宣伝には向いている。 でも、タレントのように目の周りを強調したアイメイクは、彼女の自然な愛らしさを、むしろ減らしているように見えた。
「もう仕事終わった?」
「ううん。 時間を置いて、あと二回やる予定。 その間は、裏で在庫整理」
「無理しないようにね」
「はい」
 香南は素直に答え、小さく手を振って、化粧品店の横の細い路地に入っていった。


 蔦生は、ゆっくりした足取りで駐車場へ向かった。 罠を一つ逃れたと思ったら、別の罠が目の前にうっすらと口を開けているような、嫌な予感がした。
 あの子は、あくまでも目くらましだ。 ダミーと言ってもいい。 それがターゲットの江実〔えみ〕より魅力的だったからといって、取りこまれてどうする。


 駐車場の清算機を操作した後、もやもや気分を整理しようとして、蔦生はしばらく車の運転席に座っていた。
 おかげで時間を超過してしまい、もう半時間分払わされる羽目になった。




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 日曜の夕方、香南は桜から借りたブラウスとティアードスカートを、鏡の前で着たり脱いだりしていた。 どちらも二着ずつ貸してもらったので、いろいろ組み合わせを試してみたのだ。
 結局、黒に花模様のスカートと、白いブラウス、それに自前の黒いベストという格好にした。 子供っぽすぎると大人な蔦生と釣り合わないし、ベージュのスカートだと下半身が大きく見えたからだ。
 これまで何度かデートしたことはあるが、服装にこれだけ気を遣ったのは初めてだ。 ずっと同年代の子が相手だった。 たぶん十年ぐらい年上の、そして社会的地位と収入では相当差のある蔦生とお出かけするのは、勝手が違って、とても緊張した。






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