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―25―
香南は、されるがままになっていた。 どんだけこの人を信用してるんだ、と自分を叱ってみたが、心地よさと安心感には勝てなかった。
寄り添ったまま、蔦生はしばらく無言だった。
それから、小さく息を吐くと、落ち着いた声で続けた。
「来週は、まだ時間があるんだ。 一人で行くのが心配なら、ついていこうか」
「え、そんな……!」
「僕の紹介なんだから、そのほうがいいだろう?」
「えー、でも、蔦生さんが誤解されちゃうと」
「ああ、それは心配ない」
がっかりするほどあっさりと、蔦生は打ち消した。
「久山〔ひさやま〕はこっちのこと、嫌になるほどよく知ってるから」
「そんなに親しい友達?」
「中学一年からずっと同じ学校で、同じクラス。 まあ大学は学部が違ったけど。 確率から言っても、普通ありえないよな」
うんざりしたような、愛着があるような、複雑な声音だった。 同級生の友達が一人前の医者だとすると、この人はいったい幾つなんだろう、と、香南は頭の中で計算してみた。 たぶん三十は過ぎているはずだ。
やがて、抱いていた肩をポンポンと軽く叩いて、蔦生は体を離した。
「検査、受けるよね?」
「やっぱ、そのほうがいい?」
声が無意識に哀願調になった。 蔦生ははっきり頷き、ジャージのプルの裾を握りしめている香南の手に、自分の手のひらを重ねた。
「絶対にいい。 頭痛しないんだろ?」
「うん、しない」
「じゃ、きっと重症じゃないよ」
「ええと、いくらぐらいかかるかな。 銀行からおろしてこないと」
節のしっかりした蔦生の指が、香南の手を包んで、軽く揺すった。
「費用は心配ない」
「え? そんなわけには」
「心配ない」
押し被せるように、蔦生は言った。
「僕が勝手に決めたんだから」
香南は急いで座りなおした。
「これは頼めないよ。 私のことだもん。 蔦生さんには直接関係ないんだから」
少し考えた後、蔦生は提案した。
「じゃ、結果がよかったら、割り勘にしよう」
割り勘て、食事会じゃないんだから。 蔦生の提案は、どこか風変わりだった。
「半々ってこと?」
「そう。 で、それ以外だったら、全部僕が持つ」
「なぜ!」
「今後、治療費が必要になるだろ? だから、そのぐらいは」
言葉がなくなって、香南は蔦生の穏やかな顔を、じっと見つめた。
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