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表紙

crimson sunrise
―24―


 香南は急いで両手を振り、蔦生の謝罪を打ち消した。
「そんなの、いいって。 とっくに忘れてたし」
「こっちは忘れてない。 ショックな事しちゃったから、君の具合が悪くなったんじゃない? なんか、そんな気がして仕方がないんだ」


 香南は口をつぐんで、少し上目遣いに蔦生を見た。 時期的には、確かにそうだ。 彼と出会う前は、気絶したことなんかなかった。 それでも……。
「普段は元気に働いてるみたいだけど、日が落ちると急にヘロヘロになる」
 ヘロヘロって、なんか嫌だ。 香南はふくれた。 で、つい言葉遣いがタメになった。
「そんな。 タヒってるだけじゃん」
「なに?」
「あの、タヒったって……」
 意味がわからなかったと気づいて、香南は言い直した。
「極疲れ。 くたびれてるの」
「過労か」
 蔦生はホッとせず、かえって不安の増した表情になった。
「もう二度倒れた。 三度目に目が開かなくなったらどうする?」
「わー、やめてよ、脅かすの」
 香南が半泣きになると、すかさず蔦生はソフトに提案した。
「一通り検査してもらえば、安心できるよ」
「検査? そんなの、どこ行ったらいいかわからないし」
「僕の知ってる医者が、やってくれると思う」


 香南は青くなった。
 小学生のとき、歯医者に行けと言われた日と同じ気分だ。 背中がぞわぞわする。 胃までシクシクしてきた。
「検査って……」
「痛くないと思うよ。 胃カメラとか、そんなんじゃなさそうだし」
「でも、時間かかるんでしょう? 私、暇ないから」
「仕事の日じゃなくて、休みの日に行くんだよ」
「でも……」
「来週、何曜日が休み?」
「えーっ、来週?」
「早ければ早いほどいいって。 それに、サッと済ませちゃえばそれだけ楽だよ」
 こんなチャンスはない。 香南にもよくわかっていた。 蔦生は面倒見のいい性格で、信頼できる。 知り合いの医者という人も一流だろう。
「……ビビるなぁ」
 香南は小声で、本音を吐いた。 すると、蔦生が右腕を背中に巻いて、そっと彼女を肩に抱き寄せた。






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