表紙目次文頭前頁次頁
表紙

crimson sunrise
―21―


 蔦生は、黙って足元を見下ろした。 そこには、無造作に放り込まれた洗濯物のように、香南の細い体がクシャクシャと折れて固まっていた。
 硬い表情のまま、蔦生は腰を屈めて香南の顔を仰向けにしてから、瞼を裏返した。
 彼女の目は、薄い膜がかかったようになっていた。 蔦生は思いついて、キーケースにつけているミニライトを出して、瞳孔を照らしてみた。 瞬〔まばた〕きはまったく起きなかった。
「本当に意識ないな」
 呟くと、蔦生は香南の背中に腕を差し入れ、横抱きにしてベッドに運んでいった。


 枕に頭を乗せ、きちんと布団を襟元までかけてやってから、蔦生はベッドの端に腰を下ろして、ポケットから携帯を出した。
 通話相手は、すぐに応答した。 蔦生は脚を組んでから、会話を始めた。
「ああ、悪いな、こんな時間に。 いま話せる?」
 大丈夫だと、相手は請け合った。
「調べてほしい女の子がいるんだ。 夜になってから二度ほど倒れて、意識がなくなって。 普段は元気そうなんだけど。
 え? いや、そうかなとも思った。 だけど、ほんとに気絶してるんだ。 芝居じゃなく」
 それからしばらく、蔦生は相手の説明に耳を傾けた。
「てんかん? そういう可能性もあるのか。 本人が気づかないで?
 ええと、彼女は貧血だと言ってる。 ともかく、一度ちゃんとした検査を受けるべきだと思うんだ。 このままだと、ひどくなる一方かもしれないんで。
 うん、うん。 いや、フリーターのようなもんだから、決まった休日はないらしい。 できれば今週中か、来週の初めに休みが取れないか、訊いてみるよ。 うん、ありがとう。 頼むな」




 翌朝、香南は予定ぴったりの六時半に目覚めた。
 着ているのはナイトウェアだし、起きたのはベッドの中。 別に何の違和感もなく、普段と同じに朝の支度をした。
 どうも変だ、と思いはじめたのは、入れたてのコーヒーとクリームロールを持って、ソファーの傍まで行ったときだった。
 テーブルの上が、きちんと片付いている。 というか、何ひとつ載ってない!






表紙 目次文頭前頁次頁

背景:ぐらん・ふくや・かふぇ/ボタン:May Fair Garden
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送