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表紙

crimson sunrise
―19―


 香南は、デパートなどの休業が多い水曜日か木曜日を空けて、休みにしていた。
 その週は、木曜日だった。 予定では、桜たちと辰巳の森海浜公園で遊ぶつもりだったが、生まれて初めて失神してから間もないので、今週は体力を使うゲームは止めておくことにした。
 電話で断りを入れると、桜は残念がった。
「えー、マレットゴルフやろうと思ったのに。 あれ四人一組なんだよね」
「ゲートボールみたいなやつ?」
 桜は電話口でクスクス笑った。
「まあねー。 ちとバーちゃんっぽいけど、意外に面白いんだよ。 本物のゴルフと違って、金かかんないし」
 本物のゴルフか。 接待ゴルフに出かけた蔦生の疲れた顔が脳裏をよぎった。
「今週は仕事入れすぎでさ、疲れちゃったみたいなのよ」
「そうかー。 じゃ、ゆっくり休んで」
「ごめんね。 また誘ってね」
「うんうん。 じゃねー」
 新メンバーがうまく見つかればいいが、と少し心配しながら、香南は電話を切った。




 朝、目覚ましを気にしないでいつまでも寝ていられるだけでも、休日は楽しかった。
 昼過ぎまでベッドでうだうだゴロゴロし続け、起きたのは一時近かった。 顔だけ洗って、パジャマ代わりにしているジャージのままで小さな冷蔵庫を開け、冷凍お好み焼きの袋を出してきてチンした。 それ一枚と、インスタントコーヒーで、ブランチだった。


 後は、借りてきたアメリカンなドラマをDVDで見た。 面白かったが、やがて画面がぼやけ出し、気がつくとビッグ・クッションに鼻まで埋もれた体勢で、横向きになって眠りこけていた。
 もう五月の末だが、例年になく気温が低い。 風に吹かれたひまわりのように揺れながら起き上がると、とたんにクシャミが出た。
 少し後に、ドアを叩く音がした。 チャイムは鳴らさず、コトコトッという軽いノックだった。
 続いて、穏やかな声が聞こえた。
「こんばんは。 もしかして、風邪引いた?」
 香南は深呼吸して、姿勢をまっすぐにした。 大丈夫だ。 目まいはしないし、足元もふらついていない。
「ちがうよ。 いま開けるね」
 ドアにそう呼びかけて、香南は軽い足取りでキーを解除しに行った。


 ドアレバーを掴んだ瞬間に、思い出した。 寝巻きのままじゃん……。 慌てて襟を伸ばして嗅いだが、汗臭いかどうか、よくわからなかった。
 蔦生はすぐ入ってきて、香南の妙な動作を見つけた。
「どうした?」
「あ……寝起きなんで、こんな格好でどうかなと思って」
 そのとたん、もっと恐ろしいことに気づいた。
 すっぴんじゃん……おまけに、頭もボサボサ!






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