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表紙

crimson sunrise
―7―


 悪質ないたずらなのか。
 古溝という男の顔は、はっきり覚えていた。 今思えば、何度も香南のほうをチラチラうかがっていた。 後ろ暗いところがあったからだろう。
 こうなってくると、怒りより薄気味悪さが先に立った。
 そのバーベキュー大会は、新しくできた公園の完成を祝う集いで行なわれたもので、香南はパーティー・アドバイザー(要するに、仕切り役&下働き)として雇われ、ビニールエプロンを配ったり、折りたたみのテーブルや椅子をセットしたりしていた。
 始終動き回っていたため、残した荷物に気配りしている暇はなかった。 その上、脱いだジャケットを無造作に荷物の横に置いていた。
 キーホルダーは、たしかそのジャケットのポケットに放り込んでいた。


「私、車持ってないの。 折りたたみのチャリの鍵しかないから、ここの鍵と見分けるの簡単だったと思う」
 しょんぼりして、香南は呟いた。 我ながら、これまでかなり無用心だったことがわかった。
 蔦生は表情を陰らせ、何事か考えていた。 やがて決意を固めたように、顎を上げて言った。
「ストーカーの一種かもしれないよ。 君に嫌がらせしようという」
「やだー」
 香南の顔が歪んだ。
「ここにいちゃ危険なんだ」
「わからないけど」
 蔦生は、一歩意見を後退させた。
「用心はしたほうがいい」
「やだなー、ここ、駅が近いわりには静かで、環境がよくて、気に入ってるのに」
「じゃ、やっぱりロックを増やすべきだな。 それと盗聴器の検査」
「うわー」
「落ち着いて。 本物のストーカーなら、君がどこへ引っ越しても、見つけ出してついてくるんじゃないか?」
「ちょっ……まじで脅さないで」
「待てよ、待て」
 蔦生は瞬時、目をつぶった。
 それから、謎の質問をした。
「このアパート、空き室ある?」


 頭がごちゃついていて、質問がどこにつながるか推理する力がなかった。 香南は混乱したまま、あっけなく答えた。
「ある。 下に一部屋と、こっちの隣」






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