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表紙

crimson sunrise
―4―


 香南は、しばらく無言で男を見詰め返していた。
 最初は、驚きで頭がしびれた。
 それから不意に、怒りと混乱と説明を求める気持ちがごっちゃになって、言葉がせめぎ合い、半窒息状態に陥った。
 なんだと〜ーー! 無断で人の部屋に入って、人のベッドで寝て、今もエラソーに座りこんでて、男の部屋と思っただと〜〜ー?
 こいつ、ホモか?
 だから、襲わなかったのか??


 そう思いついたら、力が抜けた。
 闘争心がみるみる萎んでいった。
 寒くなったらしく、男はベッドから動かないまま、上着を取って身につけた。 着ている間も、香南から目を離さなかった。
「驚いてるみたいだね」
 驚くさ。 驚くに決まってるさ! この状況で落ち着いていられる女がいたら、見せてみろ!
 香南は唇を湿らせ、ドアノブから手を離して、男と真正面から向き合った。
「ど、どこから入ったの?」
 少し舌がもつれたが、胸を張って怯えていないふりをした。
 男は、両手を膝の上に置き、面白そうな表情を浮かべた。
「玄関からだよ、もちろん」
「入れるわけない!」
「鍵があったから」
「あるわけが……か、鍵?」
 また口がいうことをきかなくなった。
 サーッと頭から血の気が引いた。 誰かがこの人に合鍵を渡したんだ。 すごい勢いで記憶をたどったが、友達に貸した覚えはないし、どこかへ忘れたこともなかった。


 香南の艶やかな顔を、次々といろんな表情が流れ過ぎていくのを、男は黙って見守った。
 それから、ぽつりと言った。
「もしかすると、前にこの部屋借りてた人間が、鍵を持ったまま出たんじゃないかな? このアパート、管理しっかりしてる?」
 わー、そんな……。 香南は泣きそうになった。 新しく人を入れる際には、鍵を取り替えるのは大家として当然の義務だ。
 男は、まだ考えていた。
「それとも、管理人が勝手に合鍵作ったとか、または管理がおろそかで他人に作られたとか」
 これは怖いなんてもんじゃない。 明日にでも新しい住処に移らなきゃ。 香南がなすすべなくうろたえていると、男は最後の締めを口にした。
「もう一個か二個、鍵をつければ安全だ。 ドアに傷をつけないやつがあるよ。 あれなら大家に文句言われないで設置できる」






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