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あの日あの時
49
カーテンの端を握ったまま、ウィンプルは動かなくなった。
板のような背中を見せて、彼女はしばらくそのままでいたが、やがて決心がついたように、ザーッと音を立てて重いカーテンを引いた。
たちまち部屋は明るくなり、傷がついたままの金庫や、絨毯を取り払って剥き出しにした木の床を、夏の太陽が白っぽく光らせた。
窓を後ろにして振り向くと、ウィンプルは澄ました顔で問い返した。
「なんのお話ですか? 私にはさっぱり」
「ハンカチのことよ」
エマの声は、刃物のように鋭かった。
「父が倒れていたこの辺りに、茶色のハンカチが落ちていたの。 ロディの持ち物にそっくりだったから、私は……」
「警察はそんなものは見つけていませんですよ」
ウィンプルの眼は、まっすぐエマに向けられて微動もしなかった。
「まさかお嬢さんが隠したわけじゃありませんよね」
先に視線を外したのは、エマのほうだった。
声に疲れが混じった。
「わかっているはずよ。 ロディは自分のハンカチをちゃんと持っていたわ。 わざわざ同じ物を手に入れて、ここに置いておいたのは誰?
あなたが白状しようとしまいと、もうこの家にいてもらうわけにはいかないわ。 後は退職金の問題ね。 すべてを話してくれたら、円満退職ということで、父の残した年金に上乗せして、それなりのものを支払います」
ぎゅっと握りしめられていたウィンプルの拳がゆるんだ。
「……あれは、旦那様の計画だったんです」
エマの顔に驚きが走った。 侘しい表情になって、ウィンプルはまた向きを変え、窓から外を見やった。
「旦那様の命令で、私はエマさんのスパイみたいなことをしていました。 後をつけて、見張って。
ソーンさんがハンカチを買ったとき、たまたまその店にいたんです。 それで、同じものを買っておきました。 オセロの話を思い出したもんで。 ほら、オセロって将軍がハンカチで奥さんの浮気を疑うって話、ありますよね」
――この人、手先どころかお父様の共犯といってよかったのね。 自分から進んでそんな小細工を…… ――
エマは更に不愉快になった。
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