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表紙

 あの日あの時  44




 マーゴはまだ気を揉んでいた。 実はあることが心配で飛んできたらしい。
「アッシュの持ってたピストル、あれ私のなの。 護身用に手提げの中に入れといたんだけど、いつの間にか盗んでて……ねえ、私も共犯にされないわよね?」
「僕が警察にちゃんと言っておくよ」
 ロディが辛抱強く答えた。

 マーゴはそのまま二人についてきた。 心細くてたまらないらしい。 振り切れないと悟って、ロディはプールの角で立ち止まり、エマの両肩に手を置いた。
「そろそろ警察が来る頃だろう。 事情聴取は大丈夫かい? まだ頭が痛むなら、今夜は休ませてもらったほうが」
「いいえ」
 エマは健気に首を振った。
「嫌なことは早く済ませてしまったほうがいいわ」
 ロディはかすかに笑って頷き、改めてマーゴと三人で玄関の方角に歩き出した。


 レイバーンが頼んだらしく、警察車両はサイレンを鳴らさずに敷地へ入ってきた。 秘書の顔に戻ったロディが書斎に案内し、犯人が現行犯逮捕で確保されていることを説明した。
 田舎の警察だが、署長は軍人上がりでてきぱきしていた。 無駄な調べはしないで、証言が揃うとすぐ、応急手当をしたアッシュを連行していった。
 ホールにいた沢山の客にはまったく気付かれず、鮮やかなお手並みだった。


 それでも、警官たちが去ったとき、書斎の掛時計は二時二十分を指していた。 レイバーン氏は欠伸を噛み殺して、窓際にエマと並んで立っているロディのほうを向いた。
「大変な夜だったね。 明日は、いや、もう今日だな、丸一日休みを取りなさい。 どうせ客たちはずっと居座って騒ぐだろうから、後始末は明日で充分だ」
「ありがとうございます。 それに、命を助けてくださったことも」
 真剣に礼を言おうとするロディを、レイバーンはそっけないほどの態度で退けた。
「いや、どうってことはない。 昔の西部はもっと荒っぽかった。 オハイオ鉄道の乗っ取り計画では機関車に乗り込んで……」
 そこでレイバーンは、エマがいるのを思い出し、照れくさそうに咳払いした。
「きわどい昔話は止めておこう。 それではガーランドさん、おやすみなさい。 これからはエマとお呼びしていいかな?」
「もちろんです」
 エマは控えめな笑顔で答えた。




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