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表紙

 あの日あの時  43




 庭は元の静けさを取り戻した。 そのときになって、エマは一足遅れてきた恐怖の実感におののいた。
「私たち、殺されるところだったのね」
 深刻な表情で、ロディはうなずいた。
「僕が悪い。 まだ犯人が近くをうろついているかもしれないのに、こんなところに君を引き止めておいたなんて」
「それは……あなた一人のせいじゃないわ。 私もあなたと二人きりでいたかったもの」
 薄暗がりだから、大胆な言葉が口から出せた。 二人は改めて固く抱き合ってから、互いの腰に腕を回してゆっくりと歩き出した。
「アッシュはずっと私たちを見張っていたのかしら」
「違うだろう。 君を罠にかけてから、アリバイ作りにパーティー会場へ戻ってたんじゃないか?
 そこへカートンが、ほらさっき女の子と手を繋いでやってきたプレイボーイが、面白がって僕がここにいると言いふらしたから、心配になって見に来たんだろうな」
「あなたが私を助けてしまったんじゃないかって?」
「そう」
 エマの足が、更に遅れた。
「あの、私がガレージで倒れているのがよく見つかったわね」
「それはつまり……」
 ロディの声が、地を這うぐらい低くなった。
「君をずっと見てたんだよ。 一人になったら話しかけようと思って、それで……」
 見ていてくれた。 この私をそっと目で追って――エマは嬉しくて、全身がぞくぞくした。

 寄り添ってプールの横を回っていると、カタカタとヒールの音がして、マーゴが小走りで姿を現した。
 二人は足を止めた。 マーゴも止まった。
 息を切らせながら、マーゴは両手を大きく振り動かして、言い訳を始めた。
「知らなかったのよ。 本当に。 疑ってもみなかったわ。 まさかアッシュが」
「わかってるわ」
 エマは穏やかに答えた。
「知ってたら私をフランスに呼んだりしなかったはず」
「それにしても、あのアッシュが……」
 マーゴにはまだ信じられないようだった。
「確かに彼は贅沢が好きだったけど、強盗殺人なんて!」
「弾みでそうなったんでしょう」
 エマはひどく疲れを感じていた。
「父の帰りが十時過ぎになると思っていたんでしょうね。 いつも仲間と飲む時はそうだから。 それに、私が戻っていったのも予想外だったみたいだし」
「運がなかったんだ。 悪運だが」
 ロディが冷たく言い捨てた。




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