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表紙

 あの日あの時  40




 ダラント村からロンドンまで、急行に乗って約四時間。 夜の八時半には、ロディはパディントン駅に降り立っていたはずだ。
 父の事件があった時間、ロディははるか離れた都会にいた。 それがわかって、エマは全身の力が抜けるほど嬉しかった。

 エマの肩に、ロディの手が載った。
「じゃ君は、約束を破ったわけじゃなかったんだね?」
 エマは目を固くつぶって、何度もうなずいた。
「一緒に行くつもりだった。 駅で三十分以上待ったわ。 その時間に、あなたはとっくにロンドンに着いていたなんて」
 二人は再び抱き合った。 どちらの心も、小鳥のように舞い上がっていた。
 カールした髪にほおずりしながら、ロディが囁いた。
「胸のつかえが一遍に取れた感じだよ。 僕たち、やり直せるよね。 君となら、きっと幸せになれる。 というより、こうやっているだけでもう怖いものなしって気になるよ!」
 肩に置かれた手が背中に回った。
「もう邪魔する者もないし。 お父さん、あの年に亡くなったんだって?」
 うっとりしかけていたエマの胸が、急に硬くなった。 どうやらロディは事件を知らないらしい。 マーゴがはっきり話さなかったのだろうか。
「あの……殺されたの。 駆け落ちの晩、遅くに」

「殺された……?」
 ロディは、鸚鵡返しに呟いた。 不意に想像外の知らせを耳にして、ぴんと来ない様子だった。
 それから、いきなりエマの腕を掴んで、顔を食い入るように眺めた。
「殺人だって?」
「ええ、強盗が入って、父を殴り倒して逃げたの。 金庫はもぬけの殻で、窓から庭に飛び降りた靴跡があったわ。 でも、犯人は掴まらなかったの」
「よりによって、あの晩に?」
 頭の切れるロディは、直感的に悟ったようだった。
「それって、僕に罪を着せる工作だったんじゃないのか?」




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