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あの日あの時
34
遊びなれた客たちにとって、夜の十一時など夕方と変わりないようだった。 みんな眠たがるどころか、目をらんらんとさせて飲み、踊り、笑いさざめいていた。
エマは、十時半ごろから落ち着きがなくなった。 そして、壁掛け時計の針が五十分を回ったとき、ショールを取りに来たマーゴを捕まえて尋ねた。
「ねえ、ガレージがどこにあるか知ってる?」
「ガレージ? なぜ?」
すんなり教えてもらえるものと思っていたエマは、ちょっと慌てた。
「ええと、コンパクトがないのよ。 もしかすると、車の中に置き忘れたのかと思って」
「ああ、それならまず玄関に出て、左へずっと歩いていってごらんなさい。 黒い大きな扉があるわ。 それがガレージ本体なんだけど、そこからは入れないから、横の白いドアから行ってね。 たしか、左側だったわ」
「ありがとう」
マーゴは軽く微笑して、また人々の渦に巻きこまれていった。
バッグをしっかり握り、エマは目立たないようにホールを離れて、玄関から外に出た。 マーゴの言った通り、まっすぐな壁の横を歩いていくと、巨大な黒いシャッターが目の前に現れた。 ニュース映画で見た飛行機格納庫の扉を思わせる、異様なほどの大きさだった。
確かにこれは、人力では開かない。 エマは横の小じんまりしたドアのノブを回して、静かに中へ入りこんだ。
ガレージの内部は、ホールとあまり変わらないほどの広さだった。 しかし、点いている電灯はわずかなので、黄昏〔たそがれ〕のように薄暗かった。 そのぼんやりした灯りの中に、数十台の車がずらりと並んでいる。 屋根つきの車もオープンカーも、みなオブジェのように動かないため、不思議な格好をした岩に囲まれているような気分になった。
エマは腕時計をはめてこなかった。 たとえ腕にしていても、この暗さでは時間が読めなかったかもしれない。 だから正確な時間がわからぬまま、しばらく電灯の傍に立っていた。
やがて、カチャッという小さな音がした。 鍵束が石造りの床に落ちたような音だ。 エマはびくっとして、音のしたほうに顔を向けた。
そのとたん、後頭部に何かが落ちかかってきた。 エマはかすかな呻きと共に、横の車へぶつかり、斜めになって床に崩れ落ちた。
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