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あの日あの時
33
昼食の後、ホールではチャリティ競売会が行なわれた。 参加しない客たちは庭に出て、てんでにベビーゴルフに興じたり、テニスのダブルスに参加したりしていた。
少し遅れて始まったお茶会は、そのままディナーパーティーへとなだれこんだ。 別荘でのパーティーなので、ドレスを着替える人もいたが、昼間の服装のまま参加する客も多く、みんなリラックスした雰囲気だった。
このメゾン・ドーロールの持ち主、大富豪のグレイスン・レイバーンがようやく姿を現したのは、夜の八時を過ぎてからだった。 赤味がかった金髪に一筋太い白髪の筋が入った、なかなかのハンサムで、傍に寄りそう娘と顔立ちが似ていた。
すぐに何人もの客が、挨拶に行った。 彼らと短く会話を交わし、ときには笑顔で応待しているレイバーン氏を、エマは見るともなく遠くから眺めていた。
すると、たまたま彼の首が動いて、エマと真正面から向き合う形になった。 エマは反射的に小さく会釈した。
レイバーンも軽く頭を下げて挨拶した。 そして、横にいる娘のギルダに、あの人は誰かね? と尋ねているらしい動作を見せた。
ギルダがエマを見て答えると、レイバーンの態度が微妙に変わった。 関心を持った目つき、というより、むしろ表情が真面目になって焦点が定まった、という感じが伝わってきた。
しげしげと観察されている気がして、エマは居心地が悪くなった。 それで、さりげなく向きを変え、テラスに逃れた。
人いきれのひどい室内と違い、外は爽やかで、しっとりと夜の匂いがした。 エマは両手を前に出して、伸びをした。 しながら考えた。
――グレイスン・レイバーンのあの謎めいた視線は何だろう。 彼は、一人娘がかわいいあまり、新しく知り合いになった女を念入りに点検するのだろうか――
すぐ近くに住まいのある客の一部は、早めに車で帰っていった。 だが、マーゴには全然その気はなく、アッシュも同様だった。
エマも、別荘に泊めてもらうほうに賛成した。 なにしろ、夜中の十一時にガレージへ行かなければならないのだから。 初めからロディは、そうなると見越していたようだった。
パーティーは延々と続いた。 楽団はワルツからタンゴ、チャールストンにブルースと、途切れることなくダンス曲を奏で、人々はホールやテラスで踊った。
エマも何度か誘われた。 その中にはアッシュも入っていた。
「すごい客だねえ。 百人以上いるらしいよ。 パリやカンヌ、ロンドンからまで来てるらしい」
「レイバーンさんはパーティー好きなのかしら」
「そうでもないんじゃないの? 自分は表に出ないで他のやつに仕切らせてるし。
こうやってうんざりするほど人を呼んで、裏で商談かなんか、こっそりまとめてるんじゃない?」
そう言って、アッシュは笑った。
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