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あの日あの時
18
十五分ほどしてヴェリー医師が駆けつけてきたとき、クリフォードの手を取ってさめざめと泣き伏していたのはマーゴだった。
エマは暖炉の横の小椅子にぼんやりと座り、ウィンプルは玄関まで医師を迎えに行って、書斎に案内してきた。
ヴェリーは膝をついて遺体を改めた後、複雑な表情でウィンプルに尋ねた。
「電話はどちらに?」
「はい、階段の下にあります」
「使わせてもらっていいですか?」
この問いは、マーゴに向けられたものだった。 マーゴは泣き腫らした眼を上げて、ぎこちなくうなずいた。
「どうぞ。 でも何のために?」
ヴェリーのきりっとした顔立ちが、更に引きしまった。
「ただの転倒事故とは思えない節があります。 警察を呼ばないと」
マーゴはまず目を見張り、それから叫び出した。
「えっ? どういうことです? まさか、こ、殺されたなんて」
「ここを見てください。 襟元のボタンが引っ張られて伸びています。 顎には殴られたような痣がありますし、室内靴が片方、あんな窓近くまで飛んでいます。
これは誰かと揉み合い、喧嘩になった後ではないかと」
「それじゃ、私の夫は殴り倒されて、頭を打ってこんな……」
マーゴの大きな眼から、再び涙が滝のように溢れ出した。
村の警官二人がやってきたのは、更に十分ほど経ってからだった。 マーゴはウィンプルに付き添われて寝室で臥せってしまったため、調査に立ち会ったのはエマひとりだった。
警察は書斎の窓を調べ、外側の花壇に飛び降りた足跡があるのを発見した。 それから、壁に取り付けた金庫の扉がバールのようなもので壊され、中にあった現金数百ポンドが盗まれていることも。
エマ、マーゴ、そしてただ一人の住み込みの使用人ウィンプルから、警察はそれぞれ証言を取った。
マーゴは、友達と飲むから遅くなるというクリフォードの電話をパブから受けて、先に寝んでいたという。
ウィンプルも、台所の片づけを九時には終えて、一階外れの部屋でくつろいで雑誌を読んでいた。
エマは覚悟を決めて、ほぼ本当のことを警察に話した。
「昨日ちょっと父と言い合いをして、悔しかったのでしばらくロンドンの親戚のところへ家出しようと思いました。
それで、荷物を持って駅に行ったんですが、汽車が来るとおじけづいてしまって、結局乗れずに戻ってきたんです」
警察は、箱入り娘の証言を信じた。 どっちみち、クリフォードが騒ぎに巻き込まれた時間帯、ずっと駅にいたことは、駅長が証明してくれていた。
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