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あの日あの時
11
ロディはまだ、バウカー家の離れに残っていた。 男たちはパブに集まって開戦についていろいろ話し合っているようだが、ロディはむしろ、ラジオにかじりついてニュースに聞き入っていたのだ。
青白い顔で再び窓を叩いたエマを見たとたん、ロディは事実を悟ったようだった。 さっと表情を引き締め、ラジオのスイッチを切ってから、暗い眼をして、部屋の中にエマを招じ入れた。
どう切り出していいかわからず、エマは入口近くに立ったまま、口で弱々しく息をしていた。 そのうち、みるみる太陽の光量が落ちて、お互いの表情が定かでないほど辺りが暗くなった。
すぐに、ザーッと叩きつける雨音が聞こえてきた。
「にわか雨だ。 もっとこっちに入って」
言われた通りにエマが二歩ほど踏み出すと、ロディは手を伸ばして、ドアを閉め切った。
また少し、沈黙は続いた。 窓に雨粒が強く当たり、斜めに白く筋を残した。
袖口のフリルを握りしめるようにして、エマはようやく口を開いた。
「父に話したわ」
ロディはまばたきもせず、強い視線を注いだ。
「それで、お父さんは何と?」
「駄目だって」
一息で言ったとたん、涙がどっと湧き出して、エマは顔をそらした。
もうロディの表情は視野の外だ。 代わりに、体の脇で握ったり開いたりしている拳が見えた。
「なぜ?」
押えつけた声だった。 怒りが半分、哀しみが半分の、不自然な響きがついていた。
エマは、なんとかして父の言葉の冷たさを和らげようとした。
「まだ私が若いし、あなたも就職前で……」
「勤め先はもう決まってる」
「それはそうだけど、ただ……」
「学歴が物足りないし、家柄も釣りあわない。 そういうことなんだね?」
声が荒れた。 エマはその勢いに押されて、一歩後ずさりした。
「もう会えないわ。 父はその点頑固なの。 狭い村だし、隠れて会うのは、もう不可能だわ」
ロディは答えなかった。 もう一度、訴えるような眼で彼を見上げた後、エマはうつむいてドアノブに手をかけた。
「いやだ!」
火を吐くような叫びが耳をつんざいた。 直後に両腕の枷がエマの体を挟み、思い切り引き戻した。
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