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マクミランの死んだ後には、山のような負債が残った。 屋敷は二重抵当に入っていたし、フィリパの両親が残した財産のうち、すぐ現金に換えられるものはすべて失われていた。
フィリパ・スペンサーの後見人をしているという保証だけで、マクミランは今まで持ちこたえてきたのだった。 破産寸前だった理由は、やはり投機の失敗。
スティラーが逃げ出したのは、賢い選択だと言えるようだった。
それでもコンウェイ弁護士が総力をあげて調べたところ、スペンサー家の資産は、若い二人が新しくロンドンに家を買い、エイドリアンがコンウェイ事務所の共同経営者として裕福に暮らしていけるほど、たっぷりと残っていた。
財産の整理が終わった後、若夫婦は頭をつき合わせてしばらく相談した。 ときどきクスクス笑いや爆笑が聞こえたが、やがて事務所の応接室から出てきた二人は、コンウェイがいくら問いただしても、何を話していたか教えなかった。
「秘密です」
妻にケープを着せかけてやりながら、エイドリアンは楽しげに答えた。
新居選びはゆっくりやることにして、若夫婦はひとまず、コンウェイの紹介で居心地のいいコテージに引っ越すことになった。
マクミランが死んだ二日後、新調のスーツに身を包んで現れたエイドリアンを見て、下宿の大家ベラミー夫人は腰を抜かしそうになり、両手を大きく打ち合わせた。
「まあ、まあ! なんて立派になって!」
「服装だけですよ。 それも妻のおかげです」
照れくさそうに、エイドリアンは帽子を取った。
「長くお世話になりました。 これまで溜めていた下宿代です。 遅くなってすみません」
札束を受け取って、ベラミー夫人は嬉しさとがっかりが半々の表情になった。
「助かるけど、よそへ移ってしまうのね」
「ええ、結婚したので」
「そうですってね。 クイントさんから聞いたわ。 おめでとうございます」
「ありがとうございます」
エイドリアンは満面の笑みで答え、長い足で二段飛ばしに、すりへった階段を駆け上がっていった。
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