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あなたが欲しい
53
ミネルヴァ街の洋裁店で、フィリパの買ったドレスのサイズ合わせにお針子が総動員されていた頃、マクミラン達の悪巧みも山場にさしかかっていた。
スティラーがこっそり裏口から連れてきた偽花嫁を、マクミランは興味なさそうに一瞥した。
「ふん、背丈はだいたい同じだな。 スリムな体型も似ている。 顔は……顔は、ついてりゃいい」
この失礼な言い草に、若い娘はつんと顎を上げた。
「どうせヴェールで隠すから?」
「それもあるが、本物のフィリパ・スペンサーの顔を知っている人間がほとんどいないからさ。 この家に元からいる使用人は見てるが、みな口が堅いし」
「私はね」
娘は落ち着きなく広い書斎を見回しながら言った。
「三十ポンド貰えればいいのよ。 とりあえずそれだけあれば、アイシクルとマホガニーボーイを売らないですむし、店もやっていける。
でも、本当でしょうね。 本当に式は形だけで、終わったら裏から逃がしてくれるんでしょうね」
「もちろん。 むしろ、いつまでもいられちゃこっちが困る」
娘はほっと息をついた。
「約束よ。 私は身持ちが固いんだから。 いかがわしいことは絶対にしないからね!」
「わかったわかった。 これが前渡しの十五ポンド。 さあ二階に行って、ウェディングドレスに着替えだ、リンジー」
スティラーにせきたてられて、リンジーという娘は小粋な足さばきで、さっさと階段を上がっていった。
結婚式は、例のガラスの温室と庭を一続きにして、盛大に行なわれる手筈だった。 開始時間は午後の三時。 それでも長い夏の日は、八時を過ぎても暮れないので、披露宴の時間は充分にあった。
マクミランはロンドン近郊の知り合いを片っ端から招待していた。 ついでに招かれざる客として、新聞やゴシップ雑誌の記者も数人混じっていて、シルクハットや山高帽ををかしげながら、式の前に早くも取材を開始していた。
花婿のエドワード・ガンツは、二時前に到着した。 縞のネクタイに銀のピンが光って、なかなかの男前だが、高いカラーが首に当たって痛いらしく、神経質に襟元を直すのが目についた。
「それで? 花嫁は?」
「今来る。 ほら、あそこだ」
マクミランは、階段の踊り場を手で指し示した。
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