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あなたが欲しい
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道々預けておいた馬を順番に取り替えて、三人は翌日から帰り道をたどった。 そして、八月四日の夕暮れ、無事ロンドンに到着した。
クイントは、取るものもとりあえず、カシアス劇場へ詫びを入れに行った。 なにせ九日間も勝手に留守をしていたのだから、役どころか劇団に籍が残っているかどうかさえ怪しかったのだ。
思った通り、団長は怒っていた。 部屋をブンブン歩き回りながら、長々と悪態を吐き散らした。
クイントは、神妙に帽子を持ってうなだれていたが、説教が長くなるにつれて胸を撫で下ろした。 首にするつもりなら一言で済む。 文句たらたらなのは、まだ彼の居場所がある証拠だった。
一方、新婚ほやほやの二人は、まずエイドリアンだけがコンウェイ事務所に出向き、受付に弁護士を呼んでくれるように頼んで、喫茶店の二階でこっそりと落ち合った。
上等だが地味そのものの服を着たフィリパを見て、コンウェイは首を振った。
「いかんいかん。 これから後見人のあじとに乗り込むのに、その服では迫力がない。
エイドリアン、この可愛らしい花嫁さんをドレスショップへご案内しなさい。 そして帽子から靴までできるだけ飾り立て、強欲おやじをアッと言わせてやりなさい! 金はわたしがいくらでも立て替えるから」
たちまちフィリパの顔が真夏の太陽のように輝いた。
マクミラン邸では、着々と結婚式の準備が進んでいた。 日頃は三人しかいない上にリビーに逃げられてたった二人になっていた女中が、短期間だけ四人に増強され、他にも臨時雇いの料理人や庭師が忙しく立ち働いていた。
絨毯の掃除、暖炉の点検、シャンデリアの手入れと、召使たちが飛び回る中を、陰険な目つきをした秘書のスティラーが横切り、奥の書斎に入っていった。
デスクにかがみ込んで請求書の整理をしていたマクミランが、寝不足で隈のできた顔を上げた。
「どうだ? フィリパは見つかったか?」
「いえ」
カマキリのような顎を上げて、スティラーはいまいましげに答えた。
「こうなったら、やるしかありませんな。 代理の女は確保しました。 度胸がよさそうなんで、うまくやってくれると思います」
「くれぐれも花婿には勘付かれないようにな。 あの一家は金を喉から手が出るほど欲しがってはいるが、肝が小さいから、結婚が偽装だとばれたら逃げ出すだろう。
いいか、フィリパ・スペンサーは今日の午後花嫁となり」
「早くも今夜には花婿を置き去りにして失踪」
「新婚ほやほやなのに、気の毒なことだ」
「アーメン」
男二人は目を見合わせて、にやりと笑った。
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