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表紙

あなたが欲しい  47


 イートンの外れに到着したときは、すでに真夜中近くになっていた。 だが、駆け落ちにはふさわしい舞台装置とも言える。 エイドリアンは馬が止まる前に馬車から飛び降り、裏庭に回って、窓をコツコツと叩いた。
 三度音を立てたところで人が起き上がる気配があり、ささやき声が聞こえた。
「だれ?」
「エイドリアン」
 手短に名乗ると、すぐ窓が開いた。
「何か起きたの?」
「君は婚約させられた」
 驚きで、夜目にも白いナイトキャップが揺れた。
「私が? 誰と!」
「馬車で説明する。 急がなきゃ。 その上からコートを着て出てきてくれ。 残りはまとめて持っていこう」
 フィリパは、寝起きにもかかわらず、すぐ事態を飲み込んで、急いでコートを手に取った。
「別の隠れ家に行くの?」
「いや」
 そこで、エイドリアンははたと思い当たった。 まだ一番肝心なことをしていない。 プロポーズってやつを!
 フィリパはドレスやら何やらを両腕一杯に持ち、窓を大きく開け放った。
「受け取って!」
 ふわふわの塊を、エイドリアンは反射的に抱えこんだ。 フィリパは窓を急いで閉め、ドアからすべり出て、しっかりと鍵をかけた。
「司祭様にお礼とお別れをしなくては」
「この時間ではかえって迷惑だ。 来る道中で手紙を書いておいたから、これを本館のドアの下に差し入れておくよ」
「それじゃ、この鍵も中に」
 白い紙に受け取った鍵をはさみ、クイントが牧師館に向かった。

 彼の背中が木立に隠れたのを見はからって、エイドリアンはフィリパの前に、立ちふさがるように移動した。 戸惑った表情でフィリパは足を止め、相手の緊張した顔を見上げた。
「どうしたの? 急ぐんでしょう?」
「その前にどうしても一つ、やっておかなければならないことがあるんだ。
 フィリパ・スペンサーさん。 この卑しい僕〔しもべ〕にあなたの手を与えるというこの上ない栄誉をお授けください!」






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