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あなたが欲しい  44


 スティラーに怒鳴りこまれたことで興味を持ったらしく、コンウェイ弁護士が助力してくれて、マクミランの資産状態についての調べは着々と進んだ。
 そして遂に、重大な事実がわかった。 マクミランは五年前、リクター信用取引という業者を通じて小麦相場に投資し、莫大な損をこうむっていたのだ。
「本当に金が動いていたかどうかも怪しいもんだ。 リクターはバラ色の見通しで出資者を騙して、相場が下落するのを待って持ち逃げしたという話だ」
「でも、マクミランはそれまで充分な財産を持っていたのに、なんで相場にのめり込んだんですかね」
「金持ちほど金を欲しがるんだよ。 マハラジャになりたいんだ」
 だがマハラジャどころか一介の貧乏人に成り下がりそうだとわかって、マクミランは逆上した。 友達を殺して娘の後見人になり、財産を横領して世間体をつくろった……
「幸い、フィリパさんの動産は信託という形で管理されていて、後見人でも手が出せない。 サインさせて横取りした不動産は今のところ二個所だけだ。 金欠のマクミランはすぐに売ろうとするだろうから、不実記載を申し立てて取引を停止させてしまえば、借金で首が回らなくなるぞ」
 コンウェイは楽しげにもみ手をした。
「殺人罪で裁けないなら社会的に葬ってやる。 正義は行なわれるべきだ。 なあ?」


 九月に入ってすぐ、ダービーにほど近い牧場が売りに出されるという情報が入った。 すかさずエイドリアンは現地に飛んでいって、現地の裁判所と掛け合い、売買中止命令を出してもらった。

 これで勝った、とエイドリアンは安堵感にひたって、翌日の夕方ロンドンに戻ってきた。
 だが、彼を待っていたのは、信じられない知らせだった。 マクミランは尋常な手段では金を作れないと知り、大胆な賭けに出たのだ。
 九月三日付のヘラルド・エクスプレス紙に出た社交界の記事に、こう書かれていた。
『ゴトフリー・ガンツ氏、エジプト貿易で英国に多大な貢献をした功績で従男爵に叙せられる。
 このめでたい出来事をさらに祝福すべく、サー・ガンツの嫡男エドワード・ガンツ氏(二十六歳)が、故リチャード・スペンサー氏の一粒種フィリパ・スペンサー嬢と婚約の運びとなった』





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