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表紙

あなたが欲しい  43


 スティラーはきっとエイドリアンたちを見張らせているにちがいない。 フィリパがどう過ごしているか気がかりだったが、しばらくは会いに行けなかった。
 そのじりじりする期間、エイドリアンは四年前ノッティンガム付近にいた人間を探した。 クイントも協力して、一人見つけ出した。 カシアス劇場の衣装係でメアリ・オーツという気さくなおばさんだった。
 フィリパの両親の件を、オーツ夫人も覚えていた。 橋げたが折れて馬車ごと転落するという大事故で、印象が強かったのだ。
「あの川は流れが速いの。 沈んだら車から出るのは難しいわ。 御者と馬は外だから助かったけど、馬車の中にいたご夫婦は水圧で扉が開かなくてね」
「それまでその橋で事故は?」
「なかったけど、大雨の後ちょっとぐらぐらしてきていて、修理する話が持ち上がっていたわ。 あと数日で大工が来るはずだったんだけど」
「うまい時を狙いやがったな」
 「狙うって?」
 けげんそうに顔を上げたオーツ夫人に、クイントは慌ててごまかした。
「いや、その馬車は運が悪いなと思って」
「ほんとにねえ」
 夫人は何も気付かずに続けた。
「近所の別荘のパーティーに招かれて出かける途中だったんですって。 残された一粒種のお嬢さんは、悲しみで意識がもうろうとなってしまってね。 それで親戚か誰かが、1日も早く立ち直れるようにロンドンに連れてったそうよ。 かわいそうにね」

 オーツ夫人の話をエイドリアンに伝えた後、クイントは付け加えた。
「事故じゃなく罠だったと証明するのは難しそうだな。 フィリパはショックで口もきけない状態だったようだし、まだ十六の小娘だった。 今更証言しても、判事が取り合ってくれるかどうか」
「じゃ、別方面を調べよう」
 エイドリアンは、屋根裏部屋の窓辺に腰かけ、うまく焼けたパイのような満月を見上げた。
「マクミランは絶対金に困ってる。 おそらくフィリパの財産を使い込んでるはずだ。 そのことが証明できれば、背任罪で告訴できる」 





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