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表紙

あなたが欲しい  42


 青年二人は目を見交わした。
「スティラーだな」
「そうらしい」
「奴はリビーをフィリパさんと見間違えたんだ。 ここへ来たのが夕暮れだったし、ヴェールをかぶっていたから」
「向こうは警察を呼べなかった。 ということは、やはり相当後ろ暗いな」
 二人はうなずき合い、エイドリアンの方が、残されたならず者の襟首を取って引っ張り起こした。
「お前は雇い主の人相をばらした。 ここにいると身が危険だぞ」
「無理にしゃべらせたんじゃねえか」
 男はうつむいてぶつぶつ言った。 エイドリアンはその手に五シリング握らせて言い含めた。
「町を出てしばらく隠れていろ。 戻ってきて仕事にあぶれたら、コンウェイ弁護士事務所で雇ってやる」
 男はコインを引っくり返しながら、少し考え、復唱した。
「コンウェイだな?」
「そうだ」
「行くかもしれねえ。 じゃ、あばよ」
 あわてて去って行く後ろ姿を、リビーが目で追った。
「そうやって情報屋を手に入れるのね」
「新しいのがどんどん必要なんだ。 消される率が高いから」
 リビーは軽く身震いした。

 エイドリアンが珍しく金を持っているのを見て、喜んだクイントは場末のレストランへ行こうと言ってきかなくなった。
 三人は安物のビール、ワイン、それにマトンのごった煮をたらふく詰め込み、肩を組んで歌いながら、リビーの実家へ流れていった。

リビーの家は、河岸に覆い被さるように低く建つ木造二階屋のひとつだった。 家は横にどこまでも連なり、お互いに薄い壁で支えあっていた。
 入口の石段で振り向くと、リビーは言った。
「ありがと、送ってきてくれて。 お嬢様によろしくね。 誕生日までうまく逃げおおせるようにって、伝えてちょうだい」
「言っておくよ」
 エイドリアンは彼女と握手し、クイントは頬にキスして、固く約束した。






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