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表紙

あなたが欲しい  41


 次いでエイドリアンはサッと仕込杖を抜き払った。 いろいろ腹が立つことが重なってむしゃくしゃしていたので、発散にはもってこいだ。 日頃は無表情な目が燃え上がり、きれいな鬼のように迫力のある表情に変わった。
 ハンサム男のぎょっとなる変身を目の当たりにして、悪党の片割れはたじたじとなり、一歩二歩と退くと、いきなり背を見せて逃走した。
「逃げるな!」
 抜き身を振り回しながら追いかけようとするエイドリアンを、クイントが羽交い絞めして引き戻した。
「やめろ、やめろって! 噴火した頭で行くな! あいつを切り殺すかピストルで返り討ちされるか、どっちにしても将来が台無しになるぞ!」
 少し冷静になり、エイドリアンは体を揺すって友達の手を離すと、きつくなった襟元に指を入れてゆるめた。
「大丈夫だよ」
「おまえの大丈夫は当てにならん。 前にカードでインチキされたとき、相手の歯を五本折ったの忘れたか」
「俺が正しかったんだ」
「そうだ確かに。 今だって正しい。 だが、やり方ってものがある。 弁護士だろうおまえ?」
 二人が小声で言い合っている間に、背後ではリビーが道にかがみこんで、まだ起き上がれない男に問いただしていた。
「ねえあんた、誰に頼まれたの?」
 男は獰猛に唸った。
「おめえの知ったことか」
「ふーん、じゃ、これでどう?」
 愛想よく笑顔をひらめかせた後、リビーはいきなり男の片腕を取り、背中にねじ上げた。 不意をつかれた男は、情けない悲鳴をあげた。
「いてえ! 何しやがる!」
 折らない程度に関節技を決め、リビーはぐいぐい押しまくった。 痛みのあまり、男はウナギのようにのたうった。
「くそ! 離せ!」
「一言いえばいいんだよ。 この汚い仕事を頼んだのは誰?」
 安い雇い賃で腕を折られたのでは割に合わない。 男は呻きながらとうとう吐いた。
「紳士だよ。 名前は知らねえが、鼻がこっちへ曲がってて、やけに唇の薄い男さ。
 にやけた二枚目をぶちのめしてお嬢さんを奪い返せ、赤ん坊の手をひねるより簡単な仕事だって言われたんだが、あいつけっこう強いじゃねえか。 おまけに、おめえのどこがお嬢さんだ!」
「あいにくだったね」
 リビーはせせら笑い、ちょっと残念そうに腕を放した。 男は痛そうに肩を回してみて、怪我がないことを確かめた。






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