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表紙

あなたが欲しい  34


 そのまま下宿へ連れて行ったらすぐばれてしまう。 三人はエイドリアンの顔見知りである神父の小さな教会へ急いだ。

 カーシーというその神父は、熱心に慈善事業を行なうことで知られていて、自分でもイートン郊外に小さな孤児院を開いていた。 古びた扉を連打して入れてもらったエイドリアンは、ひざまずかんばかりにして神父に頼んだ。
「相手は悪人なんです。 親戚でもないのに強引に後見人になって、彼女の財産だけでなく夫の座まで狙っているんです。
 どうか助けてください。 孤児院の先生という名目で置いてあげてくれませんか?」
 カーシーは困って、大柄な青年二人とヴェールの娘を見比べた。
「しかし、後見人という地位は法律でも認められていることだし」
 ヴェールの下から、フィリパもかすれ声で必死に訴えた。
「あと半月ちょっとで、私は成年になります。 自分のことはすべて自分で決められるようになるんです。 自分の意志で寄付をすることも。
 私は子供が好きですし、孤児を引き取って一人前にするという神父さまのお考えには心から賛同いたします。 無事にあの後見人から逃れられたときには、お礼の気持ちを込めて寄付させていただきますから」
 寄付金のことよりも、その話し方に真剣さと真心を感じ取ったらしく、カーシーは間もなく心を決めた。
「よろしい。 クーパー君を信用しよう。 教会堂の中に小部屋があるから、そこで寝みなさい」
「ありがとうございます!」
 ほっとした三人が、一度に声を張り上げた。


 フィリパ嬢を預けての帰り道、馬をポクポク走らせながら、クイントは金策に頭を悩ませた。
「貸し馬代がニ頭で十シリング。 その上情報屋にニ十も使っちまったし」
「それより前に、リビーは大丈夫か?」
 エイドリアンは気が気でなかった。
「無理に別荘へ行かされて掃除なんかして、でもマクミランはいくら待っても来ないわけだから、あの秘書のやつがじれて騒ぎを起こさないかな」
「そうだな」
 妙に気合の入らない口調で、クイントは答えた。
「俺の勘なんだが、リビーちゃんはもうとっくに逃げ出してるんじゃないかと思うよ」
「どうしてわかる!」
 エイドリアンは馬上で大声になった。
 クイントは、辛抱強く説明した。
「お嬢さんのフィリパを後見人から守ってきた子だよ。 ただの小間使いじゃないんだ。 たぶん、フィリパさんが雇った用心棒なんだよ」
「あのきゃしゃなリビーが?」
 エイドリアンは頑固に信じようとしない。 それ以上踏み込んで話していいかどうかわからなかったクイントは、困ってしまった。






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